世界各地で起こった地盤隆起による大災害。韓国・ソウルの街も一瞬にして崩落してしまったが、皇宮アパートだけは唯一被害を免れていた。混乱のさなか、アパートには居住者以外の生存者たちも押し寄せてくるのだが──。
監督・脚本を手掛けたのは、「隠された時間」のオム・テファ。主人公・ヨンタクを演じるのは、「G.I.ジョー」「非常宣言」「白頭山大噴火」などのイ・ビョンホン。
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元旦、だらだらとお酒を飲みながら本を読んでいたときに、それは起きた。あまりにひどい揺れ方だったから、ぼくはすぐさま愛猫を抱き締めて背を丸めた。巨人がマンションを両手で掴んで揺さぶっているんじゃないか、なんていう荒唐無稽な想像をしてしまった。
TVを点け、パートナーと食い入るように画面を見つめる。避難を促すニュースキャスターの声を聴きながら思い出していたのは、多くのひとと同じく2011年の東日本大震災だった。
当時ぼくは高校3年生で、卒業を目前に控えていた。たまたま学校の近くの美容院にいたのだけど、帰宅しようにも電車が止まっていた。学校の最寄りと実家までは、電車で約1時間半ほどの距離がある。どうしたものかと逡巡しながらTwitterに現状を書き込むと、友人が「おれたち今みんな学校にいるよ、フラフラしてるんだったらこっち来たほうがいい」とリプをくれた。春休みだったのだが、ちょうど卒業式の運営委員会だかなんだかの集まりがあった関係で数名の生徒が学校にいたのだ。
学校に到着すると、生徒たちは食堂に集められていた。ぼくの姿を見つけた友人が手を上げてくれて、そちらのテーブルに向かう。幸いにもというか、心強かったのは、その子の他にも親しい同級生が数名いたことだった。夜が更け電車は運行を再開したが、先生たちから「現在ここにいるひとはこれ以降、家族の迎えがくる場合を除き今夜は帰宅しないでください」と指示が出たため、やむなく学校に泊まることとなった。
「まじかあ」「すごいことになったね」などとみんなで言葉を交わしていると、違うテーブルにいたクラスメイトが「なんでわざわざ学校に来たの?帰れよ〜」と冗談めかして言ってきた。経緯を説明してもなお執拗に詰め寄る彼女にうんざりしたぼくは、「だから電車が動いてなかったって言ってんじゃん、何時間もかけて歩いて帰れっていうのかよ」と声を荒げた。彼女は先の友人に恋をしていたので、一晩ともに過ごせるまたとない機会を邪魔されたのが癪に触ったのだろう。でも彼女の恋心なんて、特にこの状況下では知ったこっちゃない。そもそも彼女の恋を応援してやるほど親しくなかったし、そのせいでぼくが親密な友人と心細い夜を過ごせないなんて理不尽すぎる。「そんなにぼくを追い出したいわけ?」と畳み掛けると、彼女はすごすごと去っていった。