【マエストロ:その音楽と愛と】とある夫婦の愛と矛盾

osanai マエストロ:その音楽と愛と

伝説の指揮者、作曲家として名高いレナード・バーンスタインの生涯を描いた伝記ドラマ。
「アリー スター誕生」のブラッドリー・クーパーが監督、脚本、主演を務める。レナードの妻であるフェリシア役を務めたのは「プロミシング・ヤング・ウーマン」「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」のキャリー・マリガン。

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血を分けていない他人と愛で繋がり夫婦になる。愛には恋のような消費期限はないが、永久保証がついているわけでもない。ときに見失ってしまう不確かな愛をなんとか確かめながら、夫婦は共に生きていく。

矛盾から生まれる芸術と矛盾を許しがたい愛

レナード・バーンスタインは偉大な指揮者として世に名を残した人物だ。彼は25歳のときに急遽代役を務めたニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団の指揮を成功させ、たちまち有名になっていく。

他人が自分にどう振る舞って欲しいかわかる彼は期待に応えていき、立派なマエストロ・レナード像を作り上げる。女優である美しい妻・フェリシアと可愛いこどもたちに恵まれ、指揮者としても成功。ハタから見ると幸せなレナードだが、いつも何かに追い立てられているように感じ、次第に鬱気味になっていく。

レナードは常に矛盾を抱えて世界と対峙していた。他人の曲を指揮するよりも自分の曲を作りたい。フェリシアと結婚したが男性を愛したい。

創作者と演者は生き方が対照的であると、レナードは語っていた。演者は社交的に世界と向き合い、創作者は自分の内面に向き合い世界に問いかけると。世界が求める姿を演じる演者でもある彼は、創作者である自分の内面と向き合うごとに、世界との間に孕んだ矛盾を育てていく。

芸術はレナードの矛盾を歓迎してくれた。数学のような方程式を持たない、人間のねじれた感情。なぜ?どうして?に応えられない矛盾は、世界に問いかけるための原動力になる。矛盾をぶつけることで強いうねりとなり、レナードの音楽は芸術として昇華される。

一方で愛は矛盾を正そうとする。しかし、矛盾をほどき自分の気持ちに正直になろうとすると、かえって遠ざかっていくかもしれない愛を恐れ、レナードは家族と向き合うことができない。

そんな彼と共に生きるフェリシアもどんどん苦しくなっていく。「自分のことをわかってくれるのはこの人しかいない」と芽生えた愛で築いたふたりの世界は、いつしか「あなたのことがわからない」と崩れていく。矛盾を抱えている彼がわかるから、仲睦まじい美しい妻としてレナードの理想像の一端をになっている役割から降りたくなる。

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S H A R E
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最近会社を辞めました。登山しながら、書きながら、暮らしていけたら最高です。