1960年代のイタリアの都市、ピアチェンツァ。詩人で劇作家、蟻の生態研究者でもあるアルドは、若者のエットレと惹かれ合う。共に生活をするも、エットレの家族は警察に通報、ふたりは引き離されてしまう──。
監督を手掛けたのは、「ナポリの隣人」「家の鍵」のジャンニ・アメリオ。「輝ける青春」のルイジ・ロ・カーショが主演を務めた。
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「1960年代のイタリアが舞台の映画」と言われて、僕が想像するのは、強い日差しと乾燥した空気、舞い上がった埃で黄色がかったくすんだ青空、石畳と煉瓦の美しい街並み、そこで暮らす素朴な人々、そんな情景だ。
実際に見たことがないのにも関わらず、心の中に浮かび上がってくる断片的なイメージは、この映画の中に確かに存在している。それらは、やわらかく、懐かしく、美しい。
そうした情景の中で、社会が愛し合う2人に向ける言葉は、重く、苦しい。
「ムッソリー二は言った。イタリアに同性愛者は存在しない。ゆえに同性愛を裁く法律は存在しない」
「同性愛者が行く道は2つしかない。治療するか、自殺するかだ」
社会からも、宗教からも、医療からも、そして家族からも存在を認められることがなかった、当時のイタリアに住む同性愛者の人たち。彼らにとって、世界はどう見えていただろうか。眼の前にあるものから目をそらし、見たいものにしか見ない人たちが押し付ける抑圧に潰されていても、イタリアの情景に美しさを見出すことはできたのだろうか。