【クレイジークルーズ】狂っているのは環境でも状況でもない。人の心だった。

osanai クレイジークルーズ

豪華クルーズ船でバトラーを務める冲方が、ひょんなことから殺人事件を目撃するのだが、一緒にいた乗客は口々に「殺人事件なんて見ていない」と証言する──。
監督は瀧悠輔。脚本の坂元裕二とは、テレビドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」で共作している。

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「クレイジークルーズ」というタイトルを見た時、大嵐に巻き込まれる船の物語?殺人事件が多数発生する豪華客船の物語?などを予想したが、違った。ただただ狂った人しかいないだけの物語だった。殺人事件はあったが、そこに怖さは無く、登場人物が全員、他人のことはどうでも良く、自分のことしか考えていない、そんな物語。コメディ要素が多く入っているのでクスりとしてしまうが、殺人の描写を薄くして、乗客の騒がしさを濃くしているところにもまた狂気を感じた。

私が今、この映画について書いているのは鑑賞してすぐのこと。何か上手い文章を書こうとか、読者の皆様の心に何かを訴えようとか、そのような烏滸がましいことは考えず、映画を見てすぐの率直な感想を述べようと思う。映画評論のプロではないため、見当違いな内容になる可能性もあるし、そもそも文章自体が読み辛いと感じる人もいるかもしれない。それに関しては「申し訳ございません」とあらかじめ謝っておくことにする。

この映画は、セイレーン(ギリシャ神話に登場する海の怪物?)の話から始まり、「愛とは死に近付く行為である」という台詞とともに、若干の厳かな雰囲気で幕を開ける。仕事のできそうな空気感を大いに漂わせる、吉沢亮さん演じる冲方優うぶかたすぐるが開始数分で放つ「申し訳ございません」という謝罪が絶妙な間で面白く、『あ、これはコメディなんだ』と心の中で安堵する。なぜなら私には、重々しい作品の感想を書く自信など1ミリも無かったからだ。

主人公の冲方はエーゲ海に向かう豪華客船で働くバトラーの1人。バトラーが何者なのかについての説明は特に無く(恐らく)、私みたいに英語が苦手な人は観て感じ取るしかないのだが、それに関しては開始数十分で執事のような存在だと確信できる。念の為、鑑賞後にWikipediaで調べたところ「上位の家事使用人」という記載があった。家事使用人とは言ったものの、ここでの冲方の仕事は、鼻が伸び切ったことにより一歩進むたび足下の小さな段差に躓き続けそうなお金持ち達に、ひたすら謝ること。悪いことをしていなくても謝る。100%相手が悪くても謝る。「申し訳ございません」と言うだけで給料を貰っている、そんな印象だ。船長の吉田羊さん演じる矢淵初美やぶちはつみは、その冲方を「優秀な避雷針」と比喩する。皮肉たっぷりの嫌な言葉だ。

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S H A R E
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TWIN PLANET/漫才協会所属のお笑い芸人。
世田谷区用賀出身、早稲田大学理工学部卒業。
SNSでは"煽り系就活生"や"キャンパスあるあるネタ"が人気で、TikTokのフォロワー数は10.7万人。総再生回数2億回を突破。
最近では「FIFAワールドカップ2022」で活躍された“三笘薫選手”のモノマネ“似笘薫”としても活動し、メディアにも出演中。