【コンクリート・ユートピア】他者の権利より己の快適さを優先した結果としての、悲惨な終末について

3.11のあの日、友人に恋するクラスメイトの彼女がぼくに「帰れ」と執拗に迫る場面を見ていた数名の子たちは、そのことが原因で卒業後に彼女と距離を置くようになったと何年か後になって知った。

ここからは勝手な憶測だが、彼女があそこまで執拗だったのは、恋愛を友愛の上位に置いていたゆえかもしれない。だからただの“友だち”でありながら彼の隣を譲らないぼくに憤りを覚えていて、それがあの場で噴火してしまったんじゃないだろうか。数年後、その場にいた他の友だちとそんな話をした。彼女もまた、“イエ”に疑問を抱かぬひとだったのだ。とはいえぼくとて社会に蔓延る価値観に、はっきりとNOの意識を持っていたわけではない。単純にジェンダー・アイデンティティが性別二元論からはみ出していたゆえに、恋愛と友愛における上位・下位通念を理解できなかっただけ。

まもなく能登半島地震から1ヶ月が経過する。障害者が避難所から受け容れを拒否されたり、出て行けと迫られたりしたなどという報道も流れてくるようになった。きっとぼくも避難所へは行けない。ぼくは精神障害者2級で、毎晩のように悪夢を見ては叫ぶ症状を持っているから。

己の快適さを優先し、他者の権利を阻害する。その先に待ち受けるものを、排斥したひとびとは想像できているのだろうか。もしくは自らがなんらかのきっかけで“排斥される側”になる可能性を、想像できているのだろうか。“だれかと比べて自らの命のほうが価値は高い”、そんな思い上がりも甚だしい選民思想を信じているひとたちは、周囲から軽蔑の眼差しを向けられていることに気付かない。それはまさしく、ミョンファがヨンタクや彼を崇拝する住民たちにひたと向ける眼差しである。この眼差しに気付かないひとたちは、いつか滅んでいく。その終末はすでに決定づけられている。

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■コンクリート・ユートピア(原題:콘크리트 유토피아、英題:Concrete Utopia)
監督:オム・テファ
脚本:イ・シンジ、オム・テファ
撮影:チョ・ヒョンレ
美術:チョ・ファソン
編集:ハン・ミヨン
音楽:キム・ヘウォン
出演:イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン、キム・ソニョン、パク・ジフ、キム・ドユンほか
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-asia.com/CU/

(イラスト:水彩作家yukko

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ライター。修士(学術)、ジェンダー論専攻。ノンバイナリー(they/them)/日韓露ミックス。教育虐待サバイバー。ヤケド注意の50℃な裸の心を書く。