【蟻の王】適切な関係と正しい愛

世界は罪を贖わない

冒頭でお互いが作った詩を暗誦しながら見つめ合っていた2人は最後に再会を果たす。エットレがアルドに向かって詩を読む。その詩はアルドが昔読んだものなのだが、エットレに言われるまでアルドはその詩が自分の作品であることに気付かない。気付けない。エットレはポケットからメモを出して見なければ、詩を読むことができない。

かつて「作品とは主観的真実の表出だ」と語ったアルドは、もう長いこと作品を作っていない。エットレは田舎町の野外劇場で美術を担当しながら画家になりたいんだと語る。抱きしめ合う2人。彼らは愛について語らない。新しい詩はもう生まれない。かつて読んだ詩は忘れ去られようとしている。2人の間にあった大事なものは損なわれてしまった。世界が2人から取り上げて、ぐちゃぐちゃに踏み潰したのだ。

ラストシーンに映る夕日は、彼ら2人が失ったものへの手向けのように見えた。罪を贖うことのない世界は、僕は、今日も正しくない愛を探している。夕日はここへは届かない。

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■蟻の王(原題:Il signore delle formiche、英題:Lord of the Ants)
監督:ジャンニ・アメリオ
脚本:ジャンニ・アメリオ
撮影:ルアン・アメリオ・ウイカイ
美術:マルタ・マッフッチ
衣装:バレンティーナ・モンティチェッリ
編集:シモーナ・パッジ
出演:ルイジ・ロ・カーショ、レオナルド・マルテーゼ、エリオ・ジェルマーノ、サラ・セラヨッコほか
配給:ザジフィルムズ
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/arinoo/

(イラスト:水彩作家yukko

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1984年生まれ。兼業主夫。小学校と保育園に行かない2人の息子と暮らしながら、個人事業主として「法人向け業務支援」と「個人向け生活支援」という2つの事業をやってます。誰か仕事をください!