アメリカナイズされた雰囲気
スタイリッシュだと感じたのは、色彩や音楽によるものもあるが、アメリカナイズされた作風だからだ。
まず、たびたび登場するダイナーは、赤い革張りの椅子に外の看板は全て英字。会話は韓国語で交わされるが、まるでアメリカにいるようだ。
オクジュが取引をした武器商人の中年夫婦についても、出で立ちがウェスタン風で、荒野でやりとりする様子は西部劇を思わせるのも印象的であった。
また、オクジュがミニの家に行く前に立ち寄った「ドリームワールド24マート」という売店では、トルコ人と思われる男性が働いており、海外製の商品ばかりが並べられていた。オクジュがそこで買ったのも、韓国映画お馴染みのチャミスルではなく、レモネードとジンの「BOMBAY SAPPHIRE」だ。細かなところまで徹底している。
ハリウッド映画のオマージュ
そして、特にハリウッド映画オマージュシーンが2つある。
1つ目は、ミニがアルバイトしていたケーキ屋にオクジュがケーキを買いにやってきた場面。色とりどりのケーキが並ぶディスプレイケースを挟んで、ミニとオクジュの目線が合う。
これは、バズ・ラーマン監督の「ロミオ&ジュリエット」(1996)でロミオ(レオナルド・ディカプリオ)とジュリエット(クレア・デインズ)が舞踏会で大きな水槽越しに見つめ合うシーンを彷彿とさせる。オクジュとミニは恋人関係ではないが、強い絆で結ばれた運命的な存在であることをロマンチックに表現していた。
ちなみに、オクジュが買ったチョコミントケーキのラッピングは、ウェス・アンダーソン監督の「グランド・ブダペスト・ホテル」(2014)に登場したラッピング箱と雰囲気がとても似ている。
2つ目は、オクジュとミニの思い出の回想シーン。写真機で写真を撮る2人の様子は、さながら「バッファロー’66」(1998)での名シーンを彷彿とさせる。
現代なら、スマホで自撮りをしそうなところだが、あえて写真機を登場させるところも90年代ハリウッド映画の雰囲気を醸し出していた。