【フェイブルマンズ】映画を愛した少年が、家族との葛藤と絆を経て辿り着いた夢の扉

私は、私の中にある「やりたい」に忠実に生きているだろうか。「書いて生きたい」という夢は、幸運にも叶った。だが、その先は?私の夢の終着駅は、さらにその先にあるのではなかったか。

誰にどう思われるとか、叶う確率が低いとか、そんなのはどうでもいい。やりたいのか、やりたくないのか。やるのか、やらないのか。結局、そこに尽きるのだと思う。サミー少年は、やり遂げた。情熱だけですべてが叶うとは思わない。でも、本作を通して、ひとつだけはっきりとわかったことがある。

情熱なしに叶えられる夢なんて、ない。

道に迷った時、外側にある道標を頼りたくなるのは、人の性だ。その方が安全だったり、批判が少なかったり、賛成してくれる人が多かったりするものだから。でも、その道を進むことで自分を殺す時間が増えるのなら、一度立ち止まって考えたい。人生は、案外短い。移り変わりの激しい他者評価のために生きられるほど、私の人生の残り時間は長くない。もうすでに、折り返しまできているのだ。

内側で蠢く「やりたい」を、強く握りしめた。この熱が冷めないうちは、必死にもがき続けよう。“芸術は麻薬だ”し、私はジャンキーに違いないけれど、だからこそ、創作が放つ光と闇の両面を見据えて歩いていく。光だけを過信せず、闇だけに溺れず、真ん中に軸を置いて手綱は自分で握る。その先にしか、おそらく答えはない。

映画を愛し、芸術を“つくる”ことに生涯をかけたスピルバーグの半生。その原体験の片鱗に触れ、自然と背筋が伸びた。

夢中になれるものがある。叶えたい夢がある。だったら、そこに向かってまっすぐに突き進めばいい。人は得てして、大人になればなるほど、シンプルな答えを見失いがちだ。でも、スピルバーグは、その答えを見失わなかった。だからこそ、「フェイブルマンズ」という作品が生まれたのだと私は思う。

叶えたい夢があるなら、諦めずにもがき続けるしかない。

シンプル・イズ・ベストな答えを、息子たちにも伝えよう。彼らの未来はこれからで、サミー少年の瞳のように、たとえ涙に濡れたとしても、何度だって輝くから。

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■フェイブルマンズ(原題:The Fabelmans)
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:スティーヴン・スピルバーグ、トニー・クシュナー
製作:クリスティ・マコスコ・クリーガー、スティーヴン・スピルバーグ、トニー・クシュナー
製作総指揮:カーラ・ライジ、ジョシュ・マクラグレン
撮影:ヤヌス・カミンスキー
プロダクション・デザイン:リック・カーター
編集:マイケル・カーン、サラ・ブロシャー
衣装:マーク・ブリッジス
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ガブリエル・ラベル、ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュ、ジュリア・バターズ、キーリー・カルステン、ジーニー・バーリン、ロビン・バートレット、クロエ・イースト、サム・レヒナー、オークス・フェグリーほか
配給:東宝東和

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729