【郊外の鳥たち】都市開発が搾取するもの、社会と個人の連続性

舞台は中国杭州市、自然豊かな水の景観で知られていた土地らしい。しかし現在は都市開発が進み、近未来的な街に変わりつつある。ジブリ映画「平成狸合戦ぽんぽこ」のたぬきたちのように、ひとり、またひとりと馴染めぬ人間たちが街を離れていく。学校からの帰り道、子どもたちが廃屋のあいだを縫うようにして走り回る場面を見ながら、同じくジブリ「耳をすませば」主人公・月島雫がカントリー・ロードをブラックジョークで訳した“コンクリート・ロード”を思い出していた。

コンクリート・ロード
どこまでも 森をきり、谷をうめ
ウエスト東京 マウント多摩
ふるさとは コンクリート・ロード

映画「耳をすませば」より

雫たちが住んでいる多摩市は、東京郊外の大規模ベッドタウンとして60年代から開発が繰り返されてきた街だ。杭州市と通ずるところがある。自然を破壊し、切り拓き、洗練されたスマートな都市に変容させられた。多摩ニュータウンで育ったひとは、成人すると他の街に移ってしまうという。「郊外の鳥たち」で、子どもたちが次々と姿を消すみたいに。

主に(なぜ“主に”なのかは後述する)ふたつの時空が、この世界の中でシームレスに行き来する。ひとつ目の時空は、青年ハオが主人公だ。地下水が問題となっている再開発都市の故郷に、地質調査のため測量士として帰ってくるところから物語は始まる。

そしてハオは、廃校となった小学校の中で自分と同じ名前の少年が書いた日記を見つける。青年ハオが、少年ハオの日常を日記を通じて覗くところから、少年ハオの生きる時空へと場面は切り替わる。太っちょ(*1)、じいさん、ティン、黒炭、キツネ、カブ、アリというあだ名がつけられた友人とともに、森を探検する。坂道を登り、枝をつなぎ合わせ、木の上の鳥の巣をつつくいたずらをする。

青年ハオは恋人となったツバメに、ピロートークで昔話を聞かせる。子どものころ、よく鳥の巣を突いて遊んでいたのだと。しかしツバメはハオと異なり、故郷である杭州にも、自身の子ども時代にも、さほど思い入れはないようだ。日課のヨガで体をほぐしながら、ハオの話を聞き流す。そしてツバメもまた、少年ハオの仲間であり、彼に淡い恋心を抱くキツネ やティンと「犬を保護した」経験等の共通点を持つ。

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S H A R E
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ライター。修士(学術)、ジェンダー論専攻。ノンバイナリー(they/them)/日韓露ミックス。教育虐待サバイバー。ヤケド注意の50℃な裸の心を書く。