作り手の「つくる」という意思

日本映画界に、若き才能が現れた年でもある。(以下には挙げないが、「よだかの片想い」の安川有果や、「裸足で鳴らしてみせろ」の工藤梨穂は、次につながる作品を残すことに成功している)

マイスモールランド」を手掛けたのは、商業映画の監督デビューである川和田恵真。17歳のサーリャを演じたモデルの嵐莉菜は、映画初出演にて主演に抜擢された。「彼女にしかできない」なんて軽々しく言いたくはないけれど、日本の不寛容な制度によって、何の罪も犯していない女子高生が理不尽な処遇に見舞われるという悲しみを、リアルな心痛を、見事に表現していた。2021年、名古屋出入国在留管理局に収容中だったスリランカ国籍のウィシュマさんがあまりに悲しすぎる死を迎えてしまったことで、フィーチャーされるようになった難民の問題。一周も二周も遅れてしまった日本人が、いかに自分たちのことしか考えていないかが明るみになってしまった出来事で。それは、もちろん自分も含めてということだけど、それがエンターテイメントとして描かれていることに、次世代の映画づくりの希望を見出すことができたのだった。

PLAN 75」も、映画監督・ 早川千絵の名前を一躍有名にした。早川は「不寛容な社会に対する警鐘を鳴らした」と、制作意図を一切隠すことはなく、メディアの取材に応じている。それは、こちらがたじろいでしまうほどで。彼女が取り上げたテーマは真っ直ぐで、現在を生きる人々への批判性を十二分に帯びている。「今ある世界は明確に間違った方向に進んでいるけれど、この方向性は、残念ながら僕たちが求め / 選んできた結果なのだ」と、何の忖度もなく伝えている。映画というメディアを通じて世間に一石投じた勇気を、誰が否定することができるだろう。

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ドキュメンタリーでいうと、「スープとイデオロギー」は外せない。在日コリアン2世のヤン ヨンヒ監督が、「済州4・3事件」を体験した母にカメラを向けたドキュメンタリーで、戦争の記憶の生々しさに胸が痛んだ。ヤン監督は、これまでの作品でも、父や兄たちを取り上げて作品づくりに励んでいる。そのことで北朝鮮からは入国禁止の通達を受けているほどだ。映画監督としては、「また家族の話か」と揶揄されることもあるらしい。しかし、「自分が撮らないで誰が撮るんだ」という強い決意、使命感は、観る側にもしっかり伝わってくる。何の閃きも批判性もなかった河瀨直美による「東京2020オリンピック SIDE:B」の対極に位置するもので、やはり2022年を語る上での作品として挙げておきたい。

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ギミックの面白さで注目されたのは、「あの夜を覚えてる」と「ボイリング・ポイント/沸騰」のふたつだ。

厳密にいうと「あの夜を覚えている」は映画ではなく、オールナイトニッポン55周年記念公演と銘打たれた生配信舞台演劇ドラマだ。ニッポン放送社屋を丸ごと使い、一挙手一投足を生放送で流すという新しい企画だ。セリフも撮影も間違えるわけにはいかない。舞台裏では怒号が飛び交っていたと言われているが、あながち誇張でもないのだろう。ハラハラするような舞台演劇を、視聴者とも共有することによって、新感覚の連帯感を味わうことができた。

「ボイリング・ポイント/沸騰」は、全編90分ワンショットで撮影された映画だ。カメラもたったひとつ。同じようにNetflix「アテナ」もワンショットでの撮影が注目されたけれど、やはり90分という長尺を全てワンショットで構成するという試みには感服せざるを得ない。まあ、「アテナ」とは比較するポイントが全然違うので甲乙はつけがたいが、どちらも入念な事前準備が組まれ、「絶対に間違えられない」という状況が組まれていて。そんな中、スタッフとキャストがものづくりに挑んだというのが美談として語られているのも共通している。(ギミックの面白さとして取り上げたけれど、どちらも見応えのある作品です。悪しからず)

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株式会社TOITOITOの代表です。編集&執筆が仕事。Webサイト「ふつうごと」も運営しています。