【よだかの片想い】(ノット)ヒロインだから見えるもの

0か100かじゃなくていい

飛坂との恋をきっかけに、自身のコンプレックスと対峙したアイコ。その結末は、しかし、あまり大きな変化はない。それでも、過去のアイコとは確実に違う。彼女は、不安定ながらも果敢に前進したことで、コンプレックスとの上手な付き合いかたを見つけ始めるのだ。リアルな成長物語は、とてもささやかで、とても美しかった。

なかでも、ラストシーンは印象的だった。美しくて鮮やか。アイコと同じ研究室のミュウ先輩のセリフには、はっとさせられた。

「すべてさらけ出して受け入れてもらう必要なんてないでしょう。人は裸で生きる動物じゃないんだから」と、ミュウ先輩はアイコに語りかける。

そうだ、王道ヒロインでない私たちは、0か100かを選ばなくたっていいのだ。コンプレックスも適度に隠したり、たまには受け止めたりしながら上手に付き合えるようになればいい。もちろん、それだって簡単なことではないし、時には失敗もするだろうけど。そんなふうに、じりじりとした不安定さを抱えながら成長していくことで、すこしずつ知らない世界が開けていくのかもしれない。

(ノット)ヒロインだからこそ見えるものが、きっとある。それでいいじゃない、と素直に思えて、心がふわりと軽くなる。そんな爽やかな作品だった。

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■よだかの片想い
監督:安川有果
原作:島本理生『よだかの片想い』
脚本:城定秀夫
撮影監督:趙聖來
音楽:AMIKO
主題歌:角銅真実「夜だか」
出演:松井玲奈、中島歩、藤井美菜、織田梨沙ほか
配給:ラビットハウス

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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東京在住。コピーライター。好きな映画は「ファミリー・ゲーム/双子の天使」「魔女の宅急便」。