【よだかの片想い】(ノット)ヒロインだから見えるもの

リアルな成長物語の「ドキドキ」と「ハラハラ」

静かで、晴れやかな作品だった。私にとって、コンプレックスとの向き合いかたが、ほんのすこし変わるような100分間になった。

描かれていたのは、ひとりの女性がコンプレックスと向き合い成長していく、リアルな姿。偽りのない、本当のヒロイン像の追求。このリアルさは、本作の大きな魅力のひとつだと思う。エンドロールが流れた時に、私の内側に充満していた感情は「ドキドキ」と「ハラハラ」だった。

まず「ドキドキ」。コンプレックスに抑圧され、内気な性格だったアイコが、どんどん行動的になり外の世界が一気に開けていく様子は、とても鮮やか。決して派手ではない、等身大の希望が描かれていた。新しい世界に触れた時にアイコが抱いた高揚感を、まるで自分のことのように感じてドキドキがいっぱいになった。

そして、「ハラハラ」。作中のアイコには、不安定な危うさが終始漂っていた。慣れない世界で奮闘し、転びそうで転ばない、と思ったらやっぱり転ぶ。みたいなあぶなっかしさ。痛い。怖い。むしゃくしゃする。わからない。

そりゃそうだ、とも思う。彼女はコンプレックスを強く感じ、長らく内気だったのだ。そう簡単にはうまくいかない。そこに王道ヒロインとは違う、圧倒的リアルがある。転ぶことさえなく新しい私に生まれ変わるヒロインなんて、アンリアルだ。

たとえば、アイコが、自身がモデルになった映画の撮影を見学しに行くシーン。恋人に夢中になり、まわりが見えなくなる様子は、自分だったら、と思うと羞恥心でおかしくなりそうだ。しかし、それもまた、成長するための通過儀礼なのかもしれない。彼女の危うさに、観ているほうはハラハラする。緊張感をもって、けれども確実に、彼女の世界は変化していく。

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S H A R E
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東京在住。コピーライター。好きな映画は「ファミリー・ゲーム/双子の天使」「魔女の宅急便」。