【TITANE チタン】愛されることを知って、愛することを知る

人はなぜ踊るのか

セリフが極端に少ないアレクシアの心情は、踊りの変化によって表現されていた。
物語の前半、ダンサーであるアレクシアは、カーショーで挑発的な目を観客に向けながら、車との絡みを見せつけるように妖艶に腰を動かし踊っていた。しかし後半、消防士の仲間たちとのパーティーで消防車の上に立たされると、とまどいながらも自分の体に手を這わせ、慈しむようにダンスを踊る。体を見せつけるのではなく、自分を愛撫するように踊る姿は、ヴァンサンとの生活による心境の変化により、日に日に育っていくお腹の生命をも受け入れつつあることが伺えた。

そしてヴァンサンも踊る。アレクシアとの夕食時、突然踊り出し、半ば強引にアレクシアの手をとる。まだ関係が浅かったふたりを表すように、ダンスもぎこちなく体はリズムとずれてぶつかり合う。相手を受け入れる覚悟がないダンスは、不協和音を奏でだす。それでも踊りをやめないヴァンサンからは、俺はお前を受け入れているぞという意志がのぞく。

アレクシアが自分の体を受け入れていったように、ヴァンサンを受け入れる象徴的な場面がパーティーでのダンスである。手を取り合い恥ずかしそうにしながらも楽しそうに踊るふたり。アレクシアは完全に受け入れてもらえてる心地よさのまま、ヴァンサンに身を任せる。手をとりあって踊っているうちは、世界にたったふたりだけのような、そんな夢みたいな時間がずっと続けばいいのにと願った。

新しい命が生まれる時

ヴァンサンとの暮らしを通して、アレクシアははじめて人を愛することを知った。

ふたりが出会った頃は、やばいやつとやばいやつが出会って、激しい殺し合いが展開されるんじゃないかとヒヤヒヤしながら観ていたが、物語が終わる頃にはふたりにとても愛おしい気持ちを抱いていた。

失った息子という大きな穴を10年も掘り進めていたヴァンサンと、深い穴に落ちながら目の前に現れるものを次々と破壊していったアレクシアは深い地中で奇跡的に出会うことになった。
歪な形をしていたふたりの魂は不思議とぴたりとはまり、それを象徴するかのようなラストを迎える。

家族/恋人/友人/師弟…などの名前で説明できる関係を飛び越えて、魂と魂が交わった先に生まれた愛。
家族だからの愛を受けることなく育ったアレクシアが、家族ではない人からの愛を受け取った。

はやく終われと願っていた前半からは思いもよらない結末に、しばらく座席から立ち上がれなかった。

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■TITANE チタン(原題:TITANE)
監督:ジュリア・デュクルノー
脚本:ジュリア・デュクルノー
製作:ジャン・クリストフ・レイモン
製作補:アマリー・オヴィセ、フィリップ・ロジー
共同製作:ジャン=イヴ・ルバン、カッサンドル・ワルノー
撮影監督:ルーベン・インペンス
音楽:ジム・ウィリアムズ
編集:ジャン=クリストフ・ブージィ
プロダクションデザイン:ローリー・コールソン、リス・ピウ
出演:ヴァンサン・ランドン、アガト・ルセル、ギャランス・マリリエ、ライ・サラメほか
配給:ギャガ

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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最近会社を辞めました。登山しながら、書きながら、暮らしていけたら最高です。