アレクシアは人よりも車に性的執着をみせる。脳のチタンが共鳴しているかのように。そして予想外なことに車とのセックスで妊娠に至る。こんなことは望んでいないとばかりに自力で堕胎を試みるが、なしのつぶてである。
自分の体なのに、自分の意志とは関係なく育っていくお腹は、別の意志を持つ生き物みたいだ。どうにもできないもどかしさを抱えながら、アレクシアの苛立ちは募っていく。
生理や妊娠によって女性の体は否応なしに変化していく。
突然の生理で予定がダメになった、想定外の妊娠でキャリアが断たれたなど、その変化の影響は大きい。自分ではどうにもできない体の変化に対するやるせなさは、身に覚えがあるものだった。
対して消防士のヴァンサンは老いに抗うべく、毎晩お尻にステロイド注射を打っていた。体の変化にとまどうのは女性だけではない。いままでできていたことができなくなるというのは、突然世界から突き放されたような苦しみをともなう。
人は生きている限り、体の変化とは隣り合わせで、どうにか折り合いをつけながら、生きていくしかない。
そんなふたりは、親子として出会う。ヴァンサンにとっては、10年間行方不明だった息子との再会。アレクシアにとっては、指名手配から逃れるための隠れ蓑。
愛に飢えたヴァンサンと、愛を知らないアレクシアは、奇妙な共同生活を始める。
ヴァンサンは息子である(と思い込んでいる)アレクシアに当然のように愛を注いでいく。家族だからこその無遠慮な立ち入り、過度なスキンシップ。抵抗しながらも力ずくの愛を受けるアレクシアは、日々激しく衝突しながらも、だんだんと心を柔らかくしていく。
息子でもなく、男でもなく、妊娠しているアレクシア。
男であるからには、自分の体の衰えを許せなかったヴァンサン。
必死に隠そうとしていた本来の姿が露わになるたびに、ふたりの関係は深まっていった。
アレクシアの裸をふいにみることになったヴァンサンは「どんな形でもお前を愛する」と言った。憎むべき自分の体、自分の正体に、赦しを与えられたような瞬間だった。