【フェイブルマンズ】映画を愛した少年が、家族との葛藤と絆を経て辿り着いた夢の扉

osanai フェイブルマンズ

1952年。両親に連れられて初めて映画館を訪ねたサミー・フェイブルマン。スクリーンで上映されたのは「地上最大のショウ」。とりわけ汽車のシーンに魅せられたサミーは、母から与えられた8ミリカメラで、映画の再現を試みる。
本作は自ら監督を務めるスティーヴン・スピルバーグの自伝的作品。共同脚本は「リンカーン」「ミュンヘン」のトニー・クシュナー。10代のサミーを演じるのは、ガブリエル・ラベル。

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“私にとってこの映画は、タイムマシンのようなものだ。”

映画「フェイブルマンズ」のパンフレットに記された、スティーヴン・スピルバーグ監督の言葉である。

映画界の巨匠・スピルバーグの子ども時代の原体験を、フィクションとして昇華させた作品「フェイズルマンズ」が、2023年3月に公開となった。「E .T.」、「ジュラシック・パーク」などの代表作をはじめ、数多くの映画作品を生み出し続けるスピルバーグによる初の自伝的作品である。

“家族の物語”を軸に据えて、映画にかけるただならぬ愛情と、創作がもたらす光と影が如実に描かれた本作は、鑑賞後、独特の余韻をもたらす。

主人公であるサミー・フェイブルマン少年がはじめて映画を鑑賞する場面から、物語は幕を開ける。当初は暗い映画館に入るのを怖がっていたサミーだったが、映画の素晴らしさを説く両親に押され、恐る恐る劇場に足を踏み入れる。大迫力の音と映像、スクリーンいっぱいに映し出されるスリリングなワンシーンを目にして、一気に映画の世界に引き込まれるサミー。この日を境に、サミーは盲信的な勢いで映画の魅力に取り憑かれていく。

その後、サミーは両親に与えられたカメラを構え、妹たちをモデルにして映画を撮ることに夢中になる。トイレットペーパーを全身に巻きつけたミイラ映画。ケチャップを血糊に見立てた恐怖の歯医者のワンシーンなど、観る側が思わず破顔してしまう心温まるエピソードだ。

撮影し、フィルムを切り取り、繋ぎ合わせ、映し出す。その工程のすべてが、サミーにとって愛おしい時間であった。自らの手のひらに映し出された映像を見つめるサミーの表情は、恍惚としていた。何かに夢中になっている子どもの瞳ほど、美しいものはない。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729