映画「PLAN 75」は、少子高齢化が一層進む近未来の日本を描く作品だ。
高齢者の急増によって生じた社会の軋轢。その解決策として、満75歳から自らの生死を選択できる制度「プラン75」が施行された。弱い立場にいる人たちへの不寛容がデフォルトとなりつつある現代、架空の制度とはいえ、非現実とも言い切れない不気味さがある。
今回インタビューしたのは、介護業界で採用・人材支援事業を行なう株式会社Blanket代表・秋本可愛さん。「プラン75」を間違った希望の象徴だと憤る。生きるとは何なのか、人はどんな可能性を持っているのか。根源的な問いへ思いを馳せてもらいたい。
秋本 可愛(あきもと かあい)
大学卒業後に株式会社Join for Kaigo(現在の株式会社Blanket)を設立。「全ての人が希望を語れる社会」を目指し、介護・福祉事業者に特化した採用・育成支援事業を行なう。介護に関心を持つ人が集まるコミュニティ「KAIGO LEADERS」の発起人。NHK中央放送番組審議会委員、株式会社土屋 社外取締役も務める。
PLAN 75
75歳以上が自ら生死を選択できる制度「プラン75」。少子高齢化が進んだ近未来の日本を舞台に、安楽死の制度をめぐって葛藤する人々の姿を描く。
78歳の角谷ミチを倍賞千恵子、「プラン75」申請窓口で働くヒロムを磯村勇斗が演じている。監督は初長編監督作となる早川千絵。
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いまは誰もが介護に関わる時代
──秋本さんは大学卒業後すぐに起業されています。どんなことがきっかけで介護に関わるようになったのでしょうか?
大学では起業サークルに所属していたのですが、正直なところ、介護への関心はありませんでした。きっかけは、一緒のチームになったメンバーのおばあちゃんが認知症を患ったこと。認知症予防に関するフリーペーパーの作成などに取り組みました。
介護のことを理解するために、介護事業所でアルバイトもしました。仕事は楽しかったのですが、そこで「もう死にたい」という方と出会って。長寿は誰にとっても誇りのはずなのに、生きていることに負い目を感じる方もいる。人生の終わりは必ずしも幸せではないと感じました。
介護に関する課題は、個人が、現場でひとつのことに対処して全て解決できるものではありません。だから私は、課題解決に関わる人たちを増やしたいと考え、大学卒業した年に会社を設立したんです。
──現在はどんな事業をされているんですか?
介護事業者の採用、人材育成の支援を行なうコンサルティング事業がメインです。高齢社会の日本では、介護人材が慢性的に不足しています。事業者も常に「人が足りない」という状況なので、私たちの会社で採用活動のお手伝いをしたり、採用戦略を一緒に設計したりしています。
他にも、「KAIGO LEADERS」というコミュニティを、2013年から運営を続けています。介護に関わる人同士が情報交換しながら、介護の未来をより良いものにしていこうという試みです。
──KAIGO LEADERSのビジョンは、「すべての人に、カイゴリーダーシップを」です。これはどのような意味があるのでしょうか?
実は2022年7月にビジョンを改訂したばかりなんです。これまでは、どちらかというと、介護業界で働く人向けのメッセージにしていました。
ですが、いまは誰もが介護に関わる時代です。介護業界の中だけでなく、社会におけるそれぞれの立場で「介護の現状をより良くしていく」ための行動が求められています。
例えば、いまは家族で介護を必要としている人がいなくても、職場で介護のあり方に苦しんでいる人がいるかもしれません。だったら働きやすいように職場の環境を整備する必要がありますよね。
また、パートナーやきょうだいと「これから親の介護をどうしようか?」と話し合いの場を設けることも、すごく大事なリーダーシップだと思います。草の根での実践が、より広がるような社会を作っていきたいと考え、「すべての人に、カイゴリーダーシップを」というビジョンを掲げることにしました。