高齢者の役割が奪われていく
──映画「PLAN 75」を鑑賞しての率直な感想を教えてください。
とても素晴らしい作品でした。
高齢者が人と疎遠になったり、賃貸住宅が借りられなくなったりといった、日本の社会課題がリアルに描かれています。介護領域に課題意識を持っている当事者として、「何とかしなければ」という思いがより強くなりました。
私の中で、一番湧いた感情は「怒り」です。架空とはいえ、私は「プラン75」という制度を否定します。高齢になるにつれ、どんどん希望がなくなっていく社会で「プラン75」だけが拠り所になっていく。あたかも素晴らしい制度かのように、社会全体で喧伝されていることに違和感を抱きました。
──映画では主人公のミチ(演・倍賞千恵子)が、ホテルの清掃員の仕事を退職を余儀なくされ、深夜に交通誘導警備員として働く姿が描かれています。
本当に辛いシーンでした。もちろん望んで交通誘導警備員の仕事をされている方もいると思いますが、78歳のミチさんには全然合っていない仕事でしたよね。体力労働で、働く人の確保が難しいとされている仕事。高齢者には、多くの世代が敬遠する仕事しか回ってこないという現実に頭を抱えました。
──ミチが退職勧奨された際に、「高齢者に仕事をさせるのはかわいそう」というクレームがあったという話がありました。
現実の社会では、労働という形でなくても、ボランティア活動に熱心に取り組んでいる高齢者もいます。介護業界でも、シニアの方が活躍できる労働機会を増やそうという動きもあります。
でも映画では「おばあちゃんには無理だから」と勝手に決めつけられて、ミチさんの役割が奪われてしまいました。色々なオプションがあるべきなのに、じわじわと「プラン75」という死の自己決定へと追い詰められていきます。
──でも表面上は、「プラン75」は“高齢者のために”と謳っていますよね。
「寄り添う」という言葉がたびたび出てきました。
「『プラン75』を選択すると10万円もらえますよ」とか、「何かあればコールセンターで15分間電話ができますよ」とか。高齢者の孤独や寂しさに寄り添っているオペレーションですが、そもそも寄り添い方が間違っています。死への誘導を善として描かれていたところに怖さを感じました。
本当であれば、人とのつながりや、他者に貢献できる機会を創出することが必要です。映画ではミチさんの友人が、高齢者施設の入居を考えているという話をしていました。その先は描かれていませんでしたが、彼女のように早い段階から介護サービスとつながれた方は、「プラン75」という選択をしなかった可能性もあります。
サービス利用者側だけでなく、介護業界には70代で職員として活躍している方もいます。もしミチさんが介護と出会えてたら、新しい世界やコミュニティを知ることができたと思うんです。