【デューン 砂の惑星PART2】シャラメ演じる“孤独なヒーロー”

ここでベネ・ゲセリットについて掘り下げてみよう。

彼女たちは代々大領家に仕えてきた存在で、数千年にわたり政治を影で操り血統を操作してきた。ベネ・ゲセリットの目的は“クウィサッツ・ハデラック”──時空に架け橋をもたらす強靭な精神を持つ、過去と未来を繋ぐ指導者を生み出すことだ。ジェシカはベネ・ゲセリットから送り込まれた側室で、レト公爵の正妻ではない。そしてどういうわけだか規則を破り、女性ではないポールにベネ・ゲセリットが使える能力を授けようと訓練をつけていた。ジェシカがいったいなぜアラキスでの戦争が起きる前からポールをクウィサッツ・ハデラックにしようとしていたのか、その理由は本作では明かされていない。

だがポールは、すくなくとも本作前半やPART1においては、「強靭な精神」の持ち主とはおよそ言い難い。ハルコンネンからの襲撃により父レト公爵が亡くなったときも、救世主としてスティルガーたちに崇められるようになったときも、未来視で自分の名の下に戦争が起きることを知ったときも、動揺するし、苦悩するし、怖気付くし、めちゃくちゃ泣く。挙句いっぱいいっぱいになって癇癪を起こし、ジェシカや臣下であるガーニィに当たり散らす。どこからどう見ても普通のティーンズの少年そのものだ。

それでも復讐心を糧になんとか自らを奮い立たせ、また貴族でありながらフレメンを対等な仲間と見做し、真摯に彼人らの言葉に耳を傾ける。その誠実さに、最初は訝しげな目で見ていたチャニは心動かされる。フレメンと共にありたいと望むポールをサポートするうち、ふたりは自然と恋に落ちる。しかしながらこの恋は、ポールに課せられた運命と拮抗するものだった。

ハルコンネン家と手を組んでアトレイデス家を滅ぼした皇帝の罪を告発すれば、皇帝を失脚させることが叶う。しかしそうすれば皇帝と大領家とのあいだで大戦が起きるだろう。心優しく善良で、かつある意味において脆弱なポールは、その事態を回避したい。そこで皇帝の娘と政略結婚をし、自らがその座につこうと画策していた。

復讐を優先し、ベネ・ゲセリットが作り出した預言に従い救世主としての道を選ぶなら、愛するチャニを正妻として迎えることは叶わない。だが父の無念を晴らす野望も、友となったフレメンの住むアラキスに緑をもたらす可能性も、捨て切れない。

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S H A R E
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ライター。修士(学術)、ジェンダー論専攻。ノンバイナリー(they/them)/日韓露ミックス。教育虐待サバイバー。ヤケド注意の50℃な裸の心を書く。