【マエストロ:その音楽と愛と】とある夫婦の愛と矛盾

愛はいかにして存在するのか?

愛とは何かを考えだすと、人はなぜ生きているのかという問いにぶち当たる。芸術もまたしかり。しかしどちらも、心と世界を豊かにしてくれるものだ。

フェリシアは、アメリカ初の偉大な指揮者にならなくてはと必死だったレナードに「本当に指揮者になりたいの?」と問いかけ、彼の作曲したミュージカルを賞賛していた。レナードが求めたのは作曲家として曲を作ることであり、作曲家としての芸術を一番認めていたのはフェリシアだった。

指揮者としての地位を着々と築いていくレナードは不眠に陥る。「夏の歌が聴こえない」という彼にかつてのフェリシアは「夏の歌が聴こえないと、音楽は作れない」と創作意欲を奮い立たせるように励ます。偉大な指揮者ではなく、作曲家としてのレナードと向き合う彼女の愛が、その言葉には詰まっていた。

レナードはフェリシアがいなくなってしまう可能性が生まれて、彼女の大切さがわかる。彼女がいたから、レナードは音楽を作ることができていたのだ。愛と音楽を与えてくれた彼女を失うということは、自分を失うことと同じだったのかもしれない。彼女がいたから世界は豊かだった。

彼らふたりが、一人の人間のように背中を合わせるシーンが2回出てくる。ひとつはふたりの情熱が最高潮だったとき。もうひとつがフェリシアの癌が発覚したとき。

「あなたは私で私はあなた」から一度離れてしまったふたりが死に直面したとき、ふたたびひとつになる。やっぱり私はあなたがいないといけないと、背中合わせで愛を確かめあうふたりは、夫婦の姿を体現していた。

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■マエストロ:その音楽と愛と(原題:Maestro)
監督:ブラッドリー・クーパー
脚本:ブラッドリー・クーパー、ジョシュ・シンガー
撮影:マシュー・リバティーク
美術:ケヴィン・トンプソン
衣装:マーク・ブリッジス
編集:ミシェル・テゾーロ
音楽:レナード・バーンスタイン
出演:ブラッドリー・クーパー、キャリー・マリガン、マット・ボマー、マヤ・ホーク、サラ・シルヴァーマン、ジョシュ・ハミルトン、スコット・エリス、ギデオン・グリック、サム・ニヴォラ、アレクサ・スウィントン、ミリアム・ショアほか
配信:Netflix
公式サイト:https://www.netflix.com/title/81171868

(イラスト:水彩作家yukko

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最近会社を辞めました。登山しながら、書きながら、暮らしていけたら最高です。