家業の銭湯を継いだかなえは、夫の失踪後も銭湯「月乃湯」の切り盛りをしていた。そんなあの日、堀と名乗る謎の男が現れ、かなえの家で住み込みながら働くことになった──。
原作は、豊田徹也の長編コミック「アンダーカレント」。「愛はなんだ」「窓辺にて」の今泉力哉が監督を手掛けた。主人公のかなえを真木よう子が演じている。
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「ひとを“わかる”って、どういうことですか?」
スクリーンの中の男の問いで思い出したのは、ぼくの双子の弟についてだった。彼の顔が脳裏に浮かんだ途端、ミニシアターの座席の肘掛けをぎゅうっと握りしめた。ビロードの生地に、汗をかいた手のひらがへばり付く。
去年の今ごろ、もう何年も疎遠だった弟から接触を受けた。とある媒体に寄稿した記事を読んで「よもやこの筆者は自分の姉なのでは」と思ったらしく、読者としてメールを寄越してきたのだ。
ぼくと彼は、実父から虐待を受けて育った。受けた傷を癒したり、損なわれたものを取り戻したりするために、似た生い立ちのひとの手記を求めるのは自然な行動だと思う。実際ぼくもサバイバーだと自覚した成人後、当事者が書いた文章をとめどなく欲した。インターネットの海を泳ぎ、近所や学校の図書館の蔵書を片っ端から漁った。いったいどうしてフラッシュバックを伴う作業をせずにいられなかったのか。最初のころはわからなかったけれど、きっとぼくは知りたかったのだ。そのひとたちがどのような加害を受けたのか、なぜ今も死を選択することなく生き続けているのか。それこそがぼくの命綱になり得るような気がして。
だから彼がぼくの書いた文章に辿り着くことも、それが自身の姉だと気づくことも、覚悟していた。ただ気づいたとて、彼は知らぬふりをするだろうと思っていたのだ。ぼくと彼は生まれてからずっと、憎み合っていたから。互いに殺意を抱くほど。憎悪の念は同じくらいだと感じていたのだが、どうやらぼくほどには、彼はぼくを恨んでいなかったようだとそのメールで知った。というのも彼はメールの中で、「姉を傷つけたことを悔やんでいる」と書いていたから。ぼくは彼への加害を、1ミリだって悔やんでいない。安直に後悔を表明して赦しを請う文言に、胃が焦げついた。双子に生まれついたのに、どこまでも噛み合わない自分たちに失笑した。