【キリング・オブ・ケネス・チェンバレン】無知で無力な世界と僕と

osanai キリング・オブ・ケネス・チェンバレン

双極性障害を患うケネス・チェンバレンが医療用通報装置を誤作動させてしまったことで、自宅に3人の警官がやって来る。穏便に対応していた警官たちは、次第に高圧的な態度をとるようになっていき──。
主人公のケネス・チェンバレンを演じたのは、「ハンニバル」「羊たちの沈黙」のフランキー・フェイソン。本作は、無実の黒人男性が白人警官に殺害された実在の事件が映画化されている。

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エンドロールが流れるスクリーンを直視できなかった。知っていたはずなのに、わかっていたことなのに。「なんてことを……」という気持ちがあふれてしまい、うずくまって身を守るしかなかった。

感情があふれてくる。怒りに近いドロドロとしたもの。それを無言で外に排出する。世界の空気を淀ませながら歩く。無実のアフリカ系アメリカ人を警官が射殺する。そんなことを何度も何度も繰り返している、この理不尽さを知らない人たちの世界なんて汚れたっていいんじゃないかと思う。

汗で張り付いたシャツが気持ち悪い。帰ってシャワーを浴びたら、この気持ちは流れ落ちてしまうだろうか。

I can’t breathe.

2011年11月19日午前5時22分、心臓の疾患を患う高齢のケネス・チェンバレンは、医療用通報装置を誤作動させてしまう。警備会社からの通報によって安否確認をしにきた警官3名は、頑なにドアを開けるのを拒む彼に対して強い不信感を抱く。一枚のドアを挟んで押し問答を繰り返した後、最終的にドアを壊して入ってきた警官にケネスは撃たれ、死亡する。

この映画は上述の事件をもとに作られている。より正確に言うと、ケネスが通報装置を誤作動させてから死亡するまでの87分間を再現したのが、この映画である。

ケネスは高齢で心臓の疾患を抱えている。そのせいだろう、息が荒い。ドア越しに警官と話すときも、絞り出すようにして声を出す。警官との噛み合わないやりとりで徐々に消耗していくケネス。息を吸っても肺に空気が入らない。精神疾患を抱え、妄想にも苦しめられていく中で彼は絞り出すような声で言う。

「息ができない(I can’t breathe.)」

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S H A R E
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1984年生まれ。兼業主夫。小学校と保育園に行かない2人の息子と暮らしながら、個人事業主として「法人向け業務支援」と「個人向け生活支援」という2つの事業をやってます。誰か仕事をください!