【丘の上の本屋さん】「何でも説明が必要とは限らない」本を通して交流する古書店店主と少年の絆を描いた物語

『星の王子さま』の主人公である王子さまは、違う星から地球にやってきて、何かわかりやすい成功を遂げたわけではない。王子さまは、地球で友達をつくった。狐との会話を通して「飼い慣らすこと」の意味を学び、そこに発生する責任や愛情を知った。自分の星で別れたバラの花を想い、自分の発言や行動を悔いた。王子さまが「誰と会い」「何を考え」「何を言ったか」。リベロが言った“何をしたか”とは、そういう意味だ。

我が家の本棚にも、『星の王子さま』がある。何度読み返したかわからない。そして、この一節は空で言える。

心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ。

『星の王子さま』より引用

本は、視覚的に見るものじゃない。心の目で見るものだ。そうしなければ見えてこない“なにか”がある。リベロは、それを知っている人だった。

リベロとエシエンの交流は、ある日終わりを迎える。だが、エシエンの心には生涯残り続けるに違いない。リベロと交わした会話、リベロが手渡してくれた本の一節、リベロが手紙で伝えた「一番大切なこと」のすべてが。

古書店の隣のカフェで働くニコラ、ニコラが想いを寄せるキアラなど、本作には魅力的な人物が数多く登場する。みんながリベロの店と、リベロのことを愛していた。リベロもまた、彼らの情と信頼に応えるべく、誰に対しても真摯に向き合った。彼の店の客は、客であり、彼の友人でもあった。

本を愛し、人を愛し、哲学と学びを尊び、人権の大切さを説く。そんな本屋の数は、多くないかもしれない。大型書店ほど目立つ存在ではないかもしれない。でも、志を持った本屋を憩いの場として、その存在に支えられて生きている人がきっといる。だから、リベロのような想いで本屋を営む人がもっと増えてほしい。

最後に、リベロがエシエンに託した本の一節を記して筆を置きたい。この一節が、机上の空論ではない世界が1日も早く訪れることを願って。

すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利について平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

『世界人権宣言』第1条より引用

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■丘の上の本屋さん(原題:Il diritto alla felicità)
監督:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
脚本:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
撮影:ジャンルカ・ガッルッチ
プロダクション・マネージャー:マリア・ロザリア・リージ
美術:クララ・スッロ
衣装:ヴィットリオ・ガルジォーロ
メイク:エレオノーラ・セルジョ
サウンドシンク:アルベルト・カルレスキ
編集:ダヴィデ・ズッケッティ
日記のナレーション:リリアーナ・フィオレッリ
出演:レモ・ジローネ、ディディ―・ローレンツ・チュンブ、コッラード・フォルトゥーナ、モーニ・オヴァディア、アンナマリア・フィッティパルディほか
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://mimosafilms.com/honya/

(イラスト:水彩作家yukko

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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729