嫌な部分をさらけだしてまで、伝えたいもの
映画「かかってこいよ世界」は、脚本家の畠中沙紀さんの実体験をもとにした作品だという。
多くの人は他者からの視線や評価が気になるもの。いい人に見られたい。少なくとも、嫌な人間には見られたくない。そう考えるのは自然なこと。
大多数の人に見られる「表現」であれば、なおさらだ。過去の後悔。失敗した話。ましてや好きな人を国籍で差別し、傷つけた話など、私ならば言いたくない。できることなら、そっと隠して、自分の心のうちでさえ、なかったことにしてしまいたくなる。自分の嫌な部分を認めるのは怖いし、他者にさらけだすのはもっと怖いから。
畠中さんは、けれども、そうはしなかった。畠中さん自身の差別心に気づいた経験が、物語に反映されている。
自分のネガティブな部分を世にさらけだしてまで伝えたい、伝えなくてはいけないという切実さを感じた。その思いをかたちにしようとする監督、演者、スタッフ、全員の気合いもまた、スクリーンからビシバシ伝わってきた。
歴史。慣習。周囲からの視線。ネガティブな状況を見ないふりをし、当事者でないふりをしつづける言い訳は、いくらでも見つかる。しかし、畠中さん、そして真紀も、自分の嫌な部分から目を背けなかった。 私も、もう目を背けたなくない。作品のエネルギーを受け、自分の内側に変化が起こり始めた。「かかってこいよ世界」と言える日も、きっと近い。
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■かかってこいよ世界
監督:内田佑季
脚本:畠中沙紀
エグゼクティブプロデューサー:鈴木祐介
プロデューサー:梶原阿貴、神崎良、佐久間敏則
撮影:御園涼平
照明:横尾慶
美術:SAKI
録音:森永昇吾
編集:橋田夏美
音楽:安田ラミファ
主題歌:土屋アンナ「Atashi」
出演:佐藤玲、飛葉大樹、菅田俊、三原羽衣、幕雄仁、鈴木秀人ほか
配給:ライツキューブ
(イラスト:Yuri Sung Illustration)