他にも、個性豊かなキャラクターたちの登場が見どころだが、カーミーとシドニーの関係に注目すると、ビジネスにおける公平性を見ることができる。
シドニーは、名店でキャリアを積んだ後カーミーと働きたくて「THE BEEF」にやってきた。彼女は勤め始めてすぐ、店の経営やレシピ、給料についてカーミーに提案する。そして、その提案をないがしろにしたカーミーにはっきりと意見する。「私の話を聞かなかった。両方が望む方法でやりたかったら、互いの話を聞かなきゃ。他の店ではなく、他の誰の下でもなくここで働きたい。この店をより良くできる」と。
日本では若い女性社員が男性上司に対して、ここまでフェアな関係でいられるだろうか?勤務環境や条件をより良くするために意見するのは当然の権利のはずだが、こういった関係性を築けている職場がすべてではないだろう。
少々せっかちな性格のシドニーだが、彼女の不器用ながらも料理にかける情熱は見守りたくなる魅力がある。なにより、彼女の真面目さがないと「THE BEEF」は、まとまらない。
ワンカットで味わうカオスな緊張感
見事な包丁さばきや調理シーンも、見どころのひとつ。カーミー役のジェレミー・アレン・ホワイトは、撮影前に2週間ほど調理師学校に通い学んだそうだ。
さらに、キッチンという動線が確保された空間の特徴を活かした演出も特徴だ。中でも第7話は、20分間おそらくワンカットで撮影されている。
タブレットを使った新システムを導入することになったある日のこと。仕込みが十分ではない中、システム上のミスが発覚する。想定外の膨大な予約注文が入り、キッチンは大忙しに。
いつものように口の悪いリッチーに対してイライラが募ったシドニーは、リッチーのお尻を包丁で刺してしまう。(故意ではないが)
パニックに陥ったカーミーは怒鳴り散らし、その態度にぶち切れたシドニーは「あなたは、素晴らしいシェフよ。でも最低の男よ」と吐き捨てて店から立ち去ってしまう。
まさにカオスな状態で開店時間を迎えるところで、このエピソードは幕をおろす。
キャラクターたちが、入れかわり立ち代わり行き交うのに合わせてカメラが動き、ピントの切り替えが細かく行われる。途切れないセリフが飛び交う20分間はまさに圧巻だ。
次第にヒートアップしていくキッチン内の雰囲気の悪さは、見ているこちらまで発狂しそうになる。体験型ドラマとも言える臨場感だ。