【アシスタント】「お気に入り」の苦しみ

20代前半のこと。私はフランクな社風で、上下関係や老若男女の違いを感じさせないフラットな組織の会社に勤めていた。

当時の私は、社会人としてのスキルを身に付けたい一心だった。業務外でも積極的に勉強会などに足を運び、ひとつでも多くの経験を積みたいと考えていた。

会社には、社内で評判が立つくらい優秀な人(A氏)がいた。

A氏とは何の接点もなかったが、藁をもつかむ思いで相談することにした。当時私は資料作成が苦手で、どのように対応すれば良いか分からなかったのだ。

A氏は、資料作成のコツとともに、思考の整理法についても助言をくれた。A氏の話は分かりやすく、業務で悩んだことがあると必ず相談するようになった。やがて交流も深まると、A氏を含め、会社の数名で飲みに行くようになった。

その日も数名で飲みに行く予定だったが、諸事情により参加者が減り、A氏と2人で飲みに行くことになった。その頃にはかなり信頼もしていたし、むしろ業務に役立つ助言も多くもらえるのではないかと期待していたほどだった。

そこで、冒頭の事件が起きた。

慌てて手を振りほどき、逃げるようにその場を立ち去った。A氏は「抱きしめたくなっちゃったんだよ」と意味不明なことを口走った。私にはそんな気持ちはないと告げ、足早に駅へと向かった。正直なところ、この辺りのことはほとんど記憶にない。

ただハッキリと覚えているのは、「優しくしてくれていたのは、こういうことだったんだ」とショックを受けたこと。それは絶望にも似た感情だった。

次の日、社内メールで、業務に対するきついクレームが入った。A氏からのものだった。

それ以降も、個別のチャットで私に対し、執拗にメールを送りつけてくる。指導にしては厳しい内容のものだった。私のミスをさりげなく指摘してくれていた、以前のA氏の姿はどこにもいなくなっていた。

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S H A R E
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アパレル業界出身のシステムエンジニア。オンラインコミュニティ「Beauty Ritual」運営。恋愛映画がすきだけど、オールジャンル鑑賞します。