そんなある日、新しいアシスタントが入社する。
顔立ちも良く、セクシーな彼女は田舎育ちのウェイトレスだったという。会長は独断によって採用を決め、彼女をラグジュアリーホテルのペニンシュラに住まわせていた。そしてあろうことか、たびたびホテルで逢瀬を重ねているようなのだ。
どこからともなく現れた会長好みの女性。許されない行為だと憤ったジェーンは、周囲の人間や人事に思い切って相談するも、「それで?君はここで働きたいんだよね?」と返され、この話はなかったことにされてしまう。
即座に会長の耳にも入り、メールで罵倒されるジェーン。
自分の置かれている状況、そしてこの状況を見て見ぬふりしている周囲の人間に立ち向かうことすらもできない。87分という短さではあったが、新人アシスタントの絶望感を切々と描いていた。
今年1月に、映画「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」が公開された。ニューヨーク・タイムズ紙の女性ジャーナリストのふたりが、元映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが起こしてきた数々の性暴力事件を取材する。被害者が長年蓋を閉ざしてきた事実が明らかになり、「#MeToo」運動のきっかけとなった。
「アシスタント」の劇中に登場する会長の姿が映されることはない。しかし映画に詳しい人なら、会長とハーヴェイ・ワインスタインの姿を重ねることは容易かっただろう。私はジェーンに同情した。
だが、実を言うと私にもあったのだ。
かつて「お気に入りアシスタント」のように優遇してもらった経験が。しかし、その行く末は悲惨だった。