では、どうすれば、他者と比較せずにいられるのだろうか。その鍵は他者を想像することにあると思う。
例えば、自分より優れている人を見て自分は劣っていると感じる。なぜあの人はできるのに自分にはできないのか。なぜ自分だけがこんなに苦しい思いをしないといけないのか。たまたま、この場所にこの身体でこういう人間として生まれてきただけなのに、なぜつらい思いをしなければいけないのか……。偶然性を呪いたいとさえ思う人もいるだろう。
しかし、こうも考えられないだろうか?
自分の人生が「たまたま」であるということは、あの人にもあの人にもなっていた可能性もあるということだと。自分は、目の前にいる他者だった可能性がありつつ、この自分である。自分の人生は徹底的に相対的で、だからこそ絶対的なのだ。あの人であった可能性がありつつ、この私でしかないならば、「この私」という不完全性を受け入れて全うするしかなくなるのだ。
そう思うことができたら、比較するこころも少しは軽くなることもあるのではないか。
このように他者を想像するためには、ある社会に属している、少なくとも他者に触れている必要があるはずだ。
だから学校は必要だと僕は思う。今の時代、勉強だったら確かにひとりでできるかもしれないけれど、誰かに見られる、誰かに触れる、誰かと比べる、といった基本的な他者が必要なのだ。
それができれば、ギウは、無条件に自分を肯定してくれる家族がいて初めて安心できる、なんてことにならずに済んだのではないか……と考えてしまう。
僕たちが生きているのは、多くの人が目的地に向かって効率よく高速で移動する高速道路のような社会だ。
高速道路の速さについていけない人を排除したり、無理やり走らせるのではなく、より多くの人がさまざまなスピードでさまざまな目的地に向かって走ることができるよう、高速道路自体を見直す必要がある。
高速道路のような社会では、あらゆる時間に目的がある。目的がある時間は加工されており、方向や勢いがある。ギウらは、この「速さ」に乗れずに止まってしまった。果たして「止まる」ことでしか「速さ」から降りることはできないのか。目的のない無加工の時間を前のめりに過ごす「休む」という方法があってもいいのではないか。
僕は、サービスエリアで「止まる」だけでなく「休む」ことができるようになりたい。
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■高速道路家族(原題:고속도로 가족、英題:The Highway Family)
監督:イ・サンムン
脚本:イ・サンムン
撮影:キム・ヒョンオク
美術:ソン・ソイル
衣装:イ・ジンソク
編集:ウォン・チャンジェ
サウンド:ホン・ソンジュン
音楽:イ・ミンフィ
出演:チョン・イル、ラ・ミラン、キム・スルギ、ペク・ヒョンジン、ソ・イス、パク・ダオンほか
配給:AMGエンタテインメント
(イラスト:Yuri Sung Illustration)