【高速道路家族】「速さ」のなかで「休む」こと

本州と淡路島を結ぶ明石海峡大橋を走ると、まるで海の上を飛んでいるかのような感覚になる。前方左手には大きな観覧車が見える。その大きな観覧車がある場所こそ、前述の淡路サービスエリアである。

1時間以上車に揺られたあとで、海風を胸いっぱいに吸い込んで深呼吸するのが好きだ。観覧車があることからもわかる通り、単に休憩するためだけの場所ではなく、サービスエリア自体を楽しむことができるようになっている。

地元で採れた野菜や地元で作ったプリンなどの加工食品などがずらっと並び、屋台で出している焼き鳥なんかも楽しめる。コンビニもあるので、たいていのものは揃っている。

確かに、これだけ充実しているならば、サービスエリアで暮らすことも可能かもしれない。

「高速道路家族」では、4人家族の生活が描かれる。食卓を囲んで談笑し、4人で仲良く雑魚寝する。仲睦まじく幸せそうな家族の風景である。

家族構成は、明るく家族を楽しませようとする父と、子供たちに惜しみなく愛情を注ぐ母、自立心があり好奇心旺盛な娘と、やんちゃな息子。どこにでもいる、ありふれた一般家庭のように感じる。

しかし彼らは、「特殊」な生活をしている。食卓はサービスエリアのフードコートで、寝床はサービスエリアに違法に設置したテントだ。さらに、日々の生活費はサービスエリアの利用者から騙し取っている。

父のギウが、裕福で温厚そうな人に目星をつけ、「財布を無くしてしまった。後で返すから貸してくれないか?」と言って2万ウォン(日本円にして約2,000円)を騙し取る。当然、簡単に貸してくれる人ばかりではないから、子供や母など家族総出で事態の深刻さをアピールし、施しを得る。

もちろん「お腹が空く」とか「トイレで寝ると背中が痛い」とか「サービスエリアを徒歩で移動すると足が痛くなる」といったように、子供たちからは不満の声も出る。不満そうな子供たちに対してギウは、「お腹が空いていないと思えば良い」「痛くないと思えば良い」と半ば冗談で言い、家族が笑う。

ただ、素人の詐欺はそう長続きしない。

かつて彼らにお金を貸した女性のヨンソンが、自分にそうしたようにお金を借りているギウの姿を目撃する。ヨンソンが昼食をとっていると、ガラスに張り付いて羨ましそうに食堂を眺める子供たちの姿を目にする。確かに、かつてお金を貸した一家の子供たちである。

異変に気づいたヨンソンは子供たちをつれて、両親のもとに詰め寄り糾弾する。追い込まれた家族は一目散に逃げ去る。しかし警察に通報したヨンソンによって、一家は瞬く間に捕まってしまう。

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S H A R E
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生活の中で感じたことや考えたことを残しておくのが好きな大学生。その過程を「あの日の交差点」というPodcastやWebサイトにアーカイブしています。