【エゴイスト】“どこにでもいる”人間の、愛と命の物語

「俺は多数決、嫌いなんだよね。だって、数が少ないほうが間違っているっていう根拠がないじゃん。数だけじゃ決めらんないじゃん」

今年15歳になる、私の長男の言葉だ。

多いから正しい。少ないから間違い。そんなのは、ただの思い込みだ。「どちらも正解」な問いは、世の中にあふれている。「人の数だけ正解がある」問いは、もっとあふれている。息子はきっと、それを肌感覚でわかっているのだろう。

マイノリティとマジョリティは、しばしば衝突する。だが本来、これらは対立を促す言葉ではない。大抵の人が、ある面ではマイノリティで、ある面ではマジョリティだ。

浩輔は、ジェンダーにおいてはマイノリティだったが、仕事では成功を収め、経済的には裕福だった。龍太の母は、ジェンダーにおいてはマジョリティだったが、病を患い働くことができず、経済的に困窮していた。そんなふたりは、本当の親子のように手をつなぎ、互いを想い合った。

怖がらず、互いに手を伸ばす。敵対するのでも、過度に庇うのでもなく、対等に並んで歩く。たったそれだけで変えられるものがあるのに、いつまでも足踏みをしていていいわけがない。

「エゴイスト」──この映画が、「社会問題をテーマとした作品」ではなく、「ありふれた愛の物語」として受け入れられる社会であってほしい。

生きていれば、嫌でも傷つくことはある。それも、けっこうな頻度で。

だからせめて、“愛したい人を愛した”だけで傷つくことのないようにと、心から願う。その願いが、高望みだとは思わない。当たり前の願いで、叶えられるべき望みで、誰の手にも届いて然るべき権利だと、私は思っている。

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■エゴイスト
監督:松永大司
原作:高山真『エゴイスト』
脚本:狗飼恭子
音楽:世武裕子
企画・プロデューサー:明石直弓
ラインプロデューサー:和氣俊之
撮影:池田直矢
照明:舘野秀樹
サウンドデザイン:石坂紘行
録音:弥栄裕樹、小牧将人
美術:佐藤希
編集:早野亮
LGBTQ + inclusive director:ミヤタ廉
スタイリスト:篠塚奈美
ヘアメイクデザイン:宮田靖士
出演:鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本明ほか
配給:東京テアトル

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729