【破戒】愚かではなく、弱いから

多数派でありたい、人の弱さ

ここまで書いて、思い出した場面がある。

多様性についての価値観を問う内容が描かれた朝井リョウ『正欲』。マイノリティーの登場人物たちが、多くの人々が少数派の性的指向を持つ人を排除する理由について話す場面がある。その理由は、「マイノリティーに対して異物だと感じるのが自分だけではないと確かめたいからではないか」と推察する。

自分がまともな人間か分からないから、少数派が異物であると確かめ合い排除しようとする。

このことは人が差別する理由や構造について象徴的に描かれているのではないか。

さらに、「破戒」において、穢多を出自とする運動家・猪子蓮太郎が差別が起こる理由について「人間が愚かだからではなく、弱いからだ」と語る場面とも繋がる。

たとえば、コミュニティの中で他者を中傷する行動は、それ自体は悪いことだと思っているけれど、コミュニティから自分が外されたくない気持ちから他者に対して優劣をつけて揶揄したり、噂を立てたりする。差別はこうした行動の延長線上にあると考えられる。

身分に対する差別がなくなったとしても、他の差別が生まれるのは、多くの人が自分は少数派ではないと思いたいからだろう。

実際、自分も波風を立てることが怖くて傍観者として何も行動を取らなかったことがある。

スクリーンを見つめていると、そうした自分の弱さを突きつけられる。

100年後の世界を生きる自分ができること

『破戒』敢行から100年以上経った世界を生きる自分の周りにも、多くの差別が存在する。

それらに対して、自分ができることは差別は強い感情から生まれるのではなく弱さ故、他人を貶めていることに自覚的になること。そして、他者を理解しようとする姿勢を持ちながら、一人ひとりと接していくことだ。

それはとても難しいことで、それでも無自覚に差別に繋がる言動をとるかもしれない。

その都度、素直に考えを改めながら、根気強く学んでいくことが自分にできることだと信じている。

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■破戒
監督:前田和男
脚本:加藤正人、木田紀生
音楽:かみむら周平
音楽プロデューサー:津島玄一
撮影:日下誠
美術:吉田孝
照明:東田勇児
出演:間宮祥太朗、石井杏奈、矢本悠馬、小林綾子、田中要次、竹中直人、石橋蓮司、眞島秀和ほか
配給:東映ビデオ

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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走る文筆家。メディア運営や文章を書く仕事をしながら、市民ランナーとして走り続けています。