「どんなバンドを目指しているのか?」と問われ、主人公の川嶋は「the band apart」だと即答する。メジャーレーベルのしがらみに苦悩する川嶋にとって、the band apartとは自らの理想を体現する存在だったのだろう。
その理想に倣い、川嶋率いるロックバンドはメジャーレーベルから離脱する。所属会社でレコーディングした楽曲を、勝手にアップロードするという掟破りの言動も伴い、川嶋たちは業界から干されてしまう。CDの販路も限定され、小さなライブ会場でしか演奏ができない。
理想では、生活ができない。川嶋は仲間に八つ当たりし、アルコール中毒に陥るなど自暴自棄に陥ってしまう。
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この辺りから、映画に対するコミットができなくなってしまった。
絵に描いたような「自暴自棄」に、ずいぶんな違和感を抱いてしまったからだ。現実は、音楽で生計を立てられなければ働かなければならない。自暴自棄になる暇なんて、本当はないのではないか、と。
川嶋を支えたのは、かつて出会ってきた女性たちだった──というのも、何だか理由としては貧弱なように感じる。夢を諦めた人が、夢を追う人に自らの夢を託すという物語は、令和という時代になかなか合致するものではないだろう。
「それらの声に後押しされて」川嶋は、復活したらしい。それはどうにかこうにか「復活したい」という願望だろう。終わってしまった栄光に再びすがりたいという制作陣の思いが、ラストシーンからひしひしと感じられて、痛かった。
それもこれも「理想を貫くのは難しい」という普遍的なメッセージであるのかもしれない。だとしたら納得である。
the band apartになるのは難しい。
そのことを訴えたからこそ、この映画のタイトルは「さよなら、バンドアパート」なのかもしれない。一周まわって、納得のラストシーンだった。
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■さよなら、バンドアパート
監督:宮野ケイジ
脚本:宮野ケイジ
原作:平井拓郎『さよなら、バンドアパート』
プロデューサー:関顕嗣
音楽プロデュース:平井拓郎
撮影:吉澤和晃
美術:阿久津桂
エンド曲:the band apart「Can’t remember」
出演:清家ゆきち、森田望智、梅田彩佳、松尾潤、小野武正ほか
配給:FREBARI、MAP
(イラスト:Yuri Sung Illustration)