「the band apartみたいなバンドになりたい」と話す主人公・川嶋。ひとりの若者が、音楽業界の「ルール」に翻弄されながらも、多くの人との出会いと別れを通じて成長するストーリー。
原作は、「note」で発表されたテキストが話題となり書籍化された平井拓郎『さよなら、バンドアパート』。主演を務めた清家ゆきちは、かつてピアノロックバンド「results in cert」でボーカルとギターを務めていた。
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いつからアーティストに「序列」が作られてしまったのだろう。
いや、決して「序列」なんて顕在化しているわけではない。そんな野暮なものにとらわれている人はごく僅かだろう。だけど音楽界隈で、何らかの価値観が生まれている感覚は確かに存在する。世事に疎い母親が「〜〜って、最近テレビ観ないね」なんて言うのと同じような。
分かりやすいのは、音楽フェスで「どのステージで演奏するか」だろう。メインステージで演奏するアーティストは、分かりやすく格上だし、それがトリにいけばいくほど「格上の格上」として認識される。(あえて小さいステージを選び「入場規制」を既成事実化するようなマネジメントもあるというが、それはそれで)
「売れなければ解散する」と自ら逃げ道を塞ぐお笑い芸人のように、「ライブ」におけるステージの大きさが、売れているのかどうかを決める尺度になる。サブスクリプション全盛期、音楽そのものだけで稼ぐのは難しい。だからそういった尺度も致し方ない気はするけれど、「ステージで歌いたい」という純粋無垢な気持ちとは相容れない価値観ではあるだろう。
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歌いたいから、歌う。
僕が知る限り、the band apartとはそんな原則を貫いているロックバンドだ。
ロックファンに厚く支持されながらも、彼らはメインステージでない場所で淡々と演奏してきた。同世代のアーティストがメインステージで歌ったり、商業的なタイアップを獲得したりする一方で、自らの持ち場を離れない。実際に日本国外でもツアーを行ない、バンドとしての強度を高め続けている。