任侠の一門に生まれた喜久雄は、抗争によって両親を亡くし歌舞伎役者の家に引き取られる。そこで出会った同年代の俊介とともに、互いを高め合う良きライバルとして歌舞伎の世界を駆け上がっていく──。
吉田修一の同名小説を映画化。スタッフに李相日（監督）、奥寺佐渡子（脚本）、ソフィアン・エル・ファニ（撮影）、種田陽平（美術監督）らが名を連ねる。主人公の喜久雄を吉沢亮、ライバルとなる俊介を横浜流星が演じる。
──
伝統芸能の世界は、世襲制度が根強い。映画「国宝」で描かれる歌舞伎の世界もまた、例に漏れず血筋を重んじる。そんな世界に単身で飛び込み、親の後ろ盾がない状態で生き抜くのは至難の業だ。しかし、本作の主人公である立花喜久雄は、獣道のような芸の道を脇目も振らずひた走る。
任侠の一門に生まれた立花喜久雄は、抗争により父を亡くした。その後、縁あって歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界に足を踏み入れる。厳しい芸の道を邁進する喜久雄には、頼りがいのある同志がいた。花井半二郎の実の息子・俊介である。喜久雄と俊介は、女形を演じるライバルとして切磋琢磨しながら、学校以外のすべての時間を稽古に費やす。
やがて、大きなチャンスに恵まれた二人は、「花井東一郎（喜久雄）」と「花井半弥（俊介）」の名を掲げ、晴れの舞台に立つ。初の大舞台は華々しい成功をおさめ、見目麗しい若手二人は「東半コンビ」と持て囃された。順風満帆なスタートを切った喜久雄と俊介だったが、芸の才能、歌舞伎に向き合う姿勢の両面において、喜久雄のほうが抜きん出ていたことをきっかけとして、二人の人生の歯車は大きく狂いはじめる。
「曽根崎心中」の公演を控えた当主の半次郎が、不運にも交通事故に遭ったのが事の発端だった。血筋を重んじる歌舞伎の世界において、代役は俊介に間違いないだろうと思われた。しかし、半次郎は、日々真剣に稽古に打ち込み、目を見張るほどの頭角を現していた喜久雄を代役に抜擢した。実の子である俊介ではなく、喜久雄を選んだ半次郎は、純粋に実力の差でもってその決断を下した。だが、俊介の母をはじめ、周囲はその決断に納得しなかった。代役に選ばれた喜久雄が演じるのは、曽根崎心中のお初。女形として名を馳せるにはまたとない機会を部屋子に授けた半次郎の決断は、異例といえるものだった。
