太平洋戦争末期、約20万人が犠牲となった沖縄戦を描いた映画「島守の塔」。コロナ禍を発端とした1年8ヶ月の撮影中断、苦難を乗り越えて完成に至った戦争映画だ。
ロシアによるウクライナ侵攻、米中対立の緊迫化など、戦争が他人事でなくなった時代。否応なく不安が募る現在だからこそ、77年前に「命どぅ宝(命こそ宝)」と訴えた沖縄の人たちの思いが心に響く。
今回取材したのは、トゥキュディデス『人はなぜ戦争を選ぶのか』を編集した曽我彩さん。実際に「島守の塔」を観ていただき、編集者の視点で感想を話してもらった。「戦争」をテーマにした映画と本をきっかけに、これからの「平和」について考えを深めてほしい。
曽我 彩(そが あや)
2015年大学卒業後、出版取次の仕事に携わる。2019年、株式会社文響社に入社。書籍編集部にて『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』シリーズのアシスタントなどを経て、主に人文系の書籍の編集に携わる。編集を手掛けたトゥキュディデス『人はなぜ戦争を選ぶのか』は各書店などにて販売中。
島守の塔
太平洋戦争末期、約20万人が犠牲となった沖縄戦。多大な犠牲に対して苦悩する沖縄県知事・島田叡と、沖縄県警察部長・荒井退造のふたりを中心に、戦争に翻弄された人々の姿が描かれている。
原案は田村洋三『沖縄の島守ー内務官僚かく戦えり』(中公文庫)。監督は「地雷を踏んだらサヨウナラ」「二宮金次郎」を手掛けた五十嵐匠。島田叡を萩原聖人、荒井退造を村上淳が演じている。
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戦争映画を作る意義
──印象に残ったシーンを教えてください。
特に印象に残ったのは、「十・十空襲(沖縄大空襲)」のシーンです。他愛ない会話を交わしていた家族が、その数分後に空襲を受けて亡くなります。家の外で、自分の家族が撃たれて倒れている。「これが戦争なんだ」と衝撃を受けました。
今年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻でも、民間人が攻撃されていると報じられています。沖縄戦と同様のことが、現在も起きてしまっていることを改めて痛感しました。
──ウクライナは同時代のこととして、沖縄戦は同じ日本のこととして。どうしても思いを重ねてしまいますね。
もうひとつ、沖縄県知事・島田叡と凛(演・吉岡里帆)が対峙するシーンも迫力がありました。沖縄県民の命を救いたい島田と、戦時教育の影響で死を厭わない凛。生死をめぐって、ふたつの価値観が対立した瞬間でした。
沖縄県民と日本軍の方針の間で、島田は板挟みになって苦しんでいました。あの場面で、頑なに死を選択しようとする凛に対して「生きろ!」と訴えます。「一億総玉砕」という国の趨勢に、最後の最後で島田が抗ったように見えました。
──映画から、どんなメッセージを感じましたか?
月並みですが、過去の過ちを知ることで、心から平和を求めたいということでしょうか。私たちは「戦争は絶対にダメ」と言われて育ちました。ですが「なぜ絶対にダメなのか」を主体的に実感できているのかといえば、そうでもないと思うんです。
映画を観て「犠牲になったのが私の家族だったら」と想像しました。大きなスクリーンで映画を観ることで、想像力や共感力が高まります。戦争映画を作る大きな意義だと感じました。