【島守の塔】戦争は他人事じゃない。「これから」を考えるために必要なこと(編集者・曽我彩)

編集を通して「これから」を提示する

──戦争をテーマにした本を編集するにあたって、意識したことはありますか?

ウクライナに関する報道をチェックすると共に、軍事侵攻を始めたロシア側の論理について考えるようにしました。アテネは強い軍事力によって恐怖政治を強いた立場であり、その点がロシアと重なるからです。

ロシアの軍事侵略を肯定するつもりはありません。ですが、ロシアとウクライナ、お互いの立場からみた正義を知ることはとても大事だと感じます。

ペロポネソス戦争でも、アテネとスパルタはどちらも「戦争をしかけたのは相手側だ」と主張します。時代は違えど、戦争に関わる全ての国が「自分たちは被害者だ」「やむをえず戦争するんだ」という認識のもとで戦争が始まることが分かりました。

それぞれの立場を理解した上で、戦争を回避するためにどんな主張をしていくか……。なかなか答えを出せない問題ですが、知らないことには何も議論できないと思うんです。

──『人はなぜ戦争を選ぶのか』の編集にあたり、注力した点を教えてください。

「戦争」と聞くだけでハードルを感じる方が多いと思うので、多くの読者が手に取りやすいよう敷居を下げる配慮をしました。

ある意味でこの本は、みんなにとって当事者の本です。ウクライナのことが連日報道され、また戦争の影響によって資材調達にも支障が出ています。戦争は他人事でないと私は思います。

──具体的には、どんな工夫をされたんでしょうか?

例えば、冒頭に漫画を加え、「この本は何が言いたくて、なぜ今読む意味があるのか」を、最初の数ページで端的に説明しました。

(曽我さん発案によって加えられた漫画、台詞や構成も曽我さんのアイデアだ)
(原著には太字も小見出しもない。「ここだけ読めば分かる」と読み手をガイドする役割を担っている)

──最後に、編集者として大事にしていることを教えてください。

読者にとって、お金を払う価値が感じられる本になっているかを常に意識しています。

『戦史』は時代を超えて読み継がれてきた古典であり、読むだけで十分価値はあります。でも、現代のように戦争について考える機会が多い状況であれば、もう一歩踏み込んでも良いはずです。この本を読んだ後、「戦争を起こさないためにどうすれば良いのか」「自分には何ができるのか」を考えてほしいと思いました。これからの社会について具体的にどう考えていけば良いのか、その道筋を示したいという思いを込めています。

──

■島守の塔
監督:五十嵐匠
脚本:五十嵐匠、柏田道夫
プロデューサー:川口浩史
音楽:星勝
撮影:釘宮慎治
出演:萩原聖人、村上淳、吉岡里帆、香川京子、池間夏海、榎木孝明ほか
配給:毎日新聞、キューテック

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株式会社TOITOITOの代表です。編集&執筆が仕事。Webサイト「ふつうごと」も運営しています。