【ローズメイカー 奇跡のバラ】だから人生はおもしろい

osanai ローズメイカー 奇跡のバラ

自身の才能を活かし、新種のバラ開発によって数々の賞に輝いてきたエヴ。だが数年前からライバルのラマルゼル社に顧客も奪われ、経営していたバラ園は倒産寸前に追い込まれる。資金繰りも厳しいバラ園にやってきたのは、職業訓練所から派遣された3名の“訳あり”人材だった──。
監督はピエール・ピノー。「大統領の料理人」のカトリーヌ・フロが主人公エヴを演じる。

──

この映画について書くことが決まったとき、正直に言うと少し苦手なジャンルかもしれないと思った。

フランス、そしてバラ園、ああ、お金持ちの話か。わたしはお金持ちの優雅な話は苦手である。世界が違いすぎて共感できないし、世界に問題は何もないかのような優雅さをどこか不気味に感じてしまう。バラの価値も正直よくわからない。

『ローズメイカー 奇跡のバラ』がはじまると、美しいバラと上品で優雅な佇まいの女性が現れたので「やっぱり」と思ったが、優雅な生活は映し出されなかった。彼女、もとい主人公のエヴが父親から譲り受けたバラ園は、倒産寸前だったのだ。

そして、「職業斡旋」と書かれた車の登場により、物語は大きく動き出す。
車はバラ園の前で止まり、運転手が降りてきた。

「新しいスタッフの件です」

エヴに心当たりはない。人違いだと言いかけるが、エヴの右腕的存在であるヴェラが制す。彼女の連絡により、この車に乗る3人の男女がバラ園に働きに来たのだという。もちろんそんなお金はない。

だがヴェラは言う。

「格安で雇えるんです」
「社会復帰だから」

3人は社会復帰を目的に就労先を探す、いわゆる「訳アリ」人材。
エヴはそれならいいかと雇うが、3人は決して魅力的な人材ではない。バラが咲き誇る様子を見て「ババアの匂いだ」と平気で口にするのだ。

だけど不思議なことに、決して有能ではない3人とやりとりを重ねるごとに、エヴがただのお嬢さんでないことが見えてくる。愛情たっぷりにバラを語り、スタッフの失敗に激怒し、どんな手を使ってでも(彼らの犯罪経験を利用してでも)、受賞レベルのバラをつくろうとする。その姿は人間味にあふれていた。

金策に頭を抱え、他人にブチギレながらも、新種改良のために丁寧に交配する姿はうつくしい。エヴのひたむきさに影響を受け、3人のバラを見る目つきも変わっていく。

「家族を亡くして、わたしにはバラしかないの」

そう呟くエヴは、寂しさを含みながらも決して卑屈ではない。バラ園への気高く前向きな愛がそこにある。

一方で訳アリ人材のひとりであるフレッドの愛は、どこか寂しい。

「俺には帰る場所もない」

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S H A R E
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フリーライター、エッセイスト、Web編集者、ときどき広報。沖縄に10年くらい住んでます。読書と短歌と育児が趣味。