かつて栄光を極めた女優エリザベス・スパークルは、50歳を迎え人気に翳りが出てきたことを実感する。不運な事故で病院での診察を終えた彼女のコートのポケットには「人生を変えた」というメモが入っていた。
「REVENGE/リベンジ」のコラリー・ファルジャが監督。主人公のエリザベスをデミ・ムーアが演じている。
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アメリカで生まれた「ルッキズム」という言葉が日本で聞かれるようになったのは、今からおよそ20年前に遡る。しかし広く知られるようになったのは、ここ最近のように思う。国外に大幅に遅れを取る形で、外見至上主義を批判する文脈で用いられることが増えてきた。体型や容姿、年齢などで社会的差別を受けることが常であった女性にとって、ルッキズムは生きづらさに直結している。
映画「サブスタンス」は、ルッキズムを正面から破壊する作品である。主人公のエリザベス・スパークルは、かつてオスカーを受賞したほどの大女優で、人々の憧れの的であった。しかし、年齢を重ねるごとにメディアの露出は減り、人気は落ちる一方で、50歳の誕生日を境にプロデューサーからレギュラー番組の降板を突きつけられる。
プロデューサーの心ない言葉に傷ついた帰り道、エリザベスは自身の広告看板が外される場面を目撃する。その事実にショックを受け、注意力散漫になった彼女は交通事故に遭う。踏んだり蹴ったりの誕生日、幸いにも怪我は軽傷で済んだものの、たまらず診察室で涙を流すエリザベスに、若き医師が謎めいた言葉をかける。これが、すべてのはじまりであった。
帰宅後、エリザベスはコートのポケットにUSBとメモが入れられていることに気づく。メモには、こう書かれていた。
「人生を変えた」
大仰な言葉である。ただ、実際にこの“贈り物”を受け取ったことで、エリザベスの人生は大きく変わる。
USBの中身は、「サブスタンス」なる実験を紹介するものだった。怪しげな雰囲気を訝しみ、USBを一度はゴミ箱に捨てるが、最終的に側面に記載されている電話番号をコールする。その後、廃墟のような場所でサブスタンスの中身を受け取った彼女は、説明書通りに行動した。理想の自分、新たな自分を手に入れるために。
サブスタンスの使い方は、主に以下の通りである。まずは薬剤である「アクティベーター」を注入し、DNAのロックを解除する。それにより、「新たな自分」いわゆる「分身」が生まれる。母体はダメージを負うが、適切な処置を施し、点滴による栄養補給を行えば生命を維持できる。母体から摂取した「安定化剤」を注入することで、分身の安定化を図る。分身と母体は必ず7日ごとに切り替える。例外はない。
こうして文字にしてみると、なんということはない“魔法の薬”のような印象を持つ人もいるかもしれない。しかし、実際は違う。分身が生まれる場面は、本作において一番はじめに訪れるグロテスクなシーンといえよう。蝶の羽化を想像してほしい。あれを人間でやるとどうなるか。その答えが、スクリーン全面に映し出される。エリザベスを母体として生まれる分身は、若く美しい。しかし、内側を食い破るようにして生まれ出るその姿は、人間の業の深さを思わせる。