2メートルを優に超えるサトウキビ。余分な部分の葉を一本一本切り落とし、根元から刈り取る。単純な作業ではあるのだが、農作業に不慣れな5人に田所から容赦ないコメントが飛ぶ。
「あのさ、もっと丁寧にやってよ!」「意外と不器用だなあ!」
派遣社員・ひなみのように素直にアドバイスを受け入れる者もいれば、大人への反抗心からふてくされる西村のような若者もいる。どこの職場でも変わらない光景だ。
不慣れな作業や不便な暮らし、対価への不満などもあいまってか数日間の作業を終えたあと、西村を含めた2名は無断でアルバイト先を去ろうとする。だが、雇用者のおじぃ・おばぁも他のメンバーもそれを非難することはない。港までの移動のついでに2人を追いかけたひなみがするのは、おじぃから預かったそれまでの給料が入った袋とおばぁから託されたにぎり飯を手渡すことだけ。
「これ、おじぃから。5日分。これ、おばぁから」
2人は結局そのあと作業へ戻る。それまでいた環境の良さに離れてから気づくのだ。
自分の都合で無断で仕事をほっぽり出し、やはり居心地がいいからと舞い戻ってくるなんて、非常識だ。そう思っただろうか。あるいは、人間だからそういう気持ちになるときもある、それを受け入れてくれる職場なんてうらやましい。そう感じただろうか。どのように受け止めるかは、今のあなたの労働観をそのままあらわしているのかもしれない。
この映画ではドラマチックなことは何も起こらない。沖縄やサトウキビの収穫というのは大半の人にとっては非日常的な設定かもしれないが、描かれるのは働く人であれば誰しも経験するありふれた日常だ。
日々家から職場に向かい、そこでたまたまチームを組むことになった同僚と与えられた仕事を黙々とこなし、時にぶつかる。その職場での仕事が終われば、それぞれ別の職場や生活へと移っていく。職場への不満やキャリアアップ目的で転職を考えることもある。期日までに仕事を終わらせなくてはならないがために、田所が無茶をしてトラブルが起こるシーンはある種ドラマチックかもしれないが、それはどんな仕事でも起こりうる。
それでもこの映画の中の労働が、自分の日々のそれと少し違って見えた瞬間がいくつかある。普段は派遣勤めをしているというひなみに、ある日の道すがら、アルバイト仲間が「今は派遣の仕事は休みなのか」と尋ねる。ひなみは笑いながら答える。
「そんな余裕ないって。今回は自分で自分を派遣した」
自分で自分を派遣する。「ハケン」という働き方を揶揄する人もいる。世間的にも派遣社員より正社員を良しとする傾向は否めない。だが、ひなみのその言葉を聞いたとき、私の中で「派遣」という言葉は急に鮮やかさを増した。誰かの意志ではなく、自分で自分の身を置くところを決め、自分を動かす。もちろんすべて自分の思い通りに行く環境などない。それでもどこに身を置くかを決めるのは最終的には自分自身なのだ。