【ひろしま】もう二度と、同じ過ちを繰り返さないために。被曝当事者が訴える切なる願いとは

戦後の広島には、立派な教会がたくさん建てられたという。朝には平和を訴える鐘が鳴り響き、平和大橋や平和を誓う記念碑も建設された。しかし、そんな広島の姿と矛盾する時の流れに、被爆者たちは警笛を鳴らす。

「私は、あの銀行の前を通るたびに思います。ピカドンの作った死の影が、今では薄くなっていますが、それをかえりみる人さえありません」

爆心地から260メートルの紙屋町住友銀行広島支店において、開店前に階段に座っていた人が逃げる間もなく亡くなった。熱線により焼け死んだ人の痕が影のように黒く残ったことから、その壁は「人影の石(*2)」と名付けられ、広島平和記念資料館に保存されている。

こんなにも酷いことが実際に起きたのに、何万人もの人が死に、後遺症や差別に苦しみ、二度と過ちを繰り返さぬよう平和を誓って憲法を定めたのに、今まさに日本国憲法が改正されようとしている。命が一瞬で焼き尽くされた痕が残っているのに、なぜ人はこうも簡単に負の歴史を忘れてしまうのだろう。

「憲政史上初の国民投票にかけるならば、緊急事態条項と合わせて、自衛隊の明記も国民の判断を頂きたい」(*3)

党本部のあいさつで、突如として岸田首相はこのように述べた。改憲条文案では、戦力不保持を定めた9条2項を削除し、「日本国は、わが国の平和と独立を守るため、自衛隊を保有する」と明記されている。(*4)

「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」 憲法第9条

このように定められた憲法第9条に対し、2項は次のように続く。

「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」 憲法第9条2項

二度と戦争をしない意思が明確にあるならば、憲法第9条2項を削除する必要はないはずだ。「諸外国に攻め込まれたら」とか、「攻撃を受けた際の抵抗武力は必要だ」とか、もっともらしい理由をつけて戦力保持を推し進めようとする人は、一度「ひろしま」を観てほしい。それでも、同じ台詞を言えるのか。私は、正面からそう問いたい。

1 2 3 4
S H A R E
  • URLをコピーしました!

text by

エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。