【虎に翼】私が思う“まっとうな”大人とは

私は、ひとりの大人としてその責任を果たしたい。ひとりで何ができるわけでもない。ただ、「戦争をするな」「殺すな」「差別をするな」と声を上げることはできる。それらの声に対し、「きれいごとを言うな」と蓋をする人たちは、ではどうしたいのだろう、といつも思う。戦争や差別を許容した先の世界がどんなものかは、本作で描かれる戦災孤児たちの姿を見れば一目瞭然である。夫を失った花江や寅子がどんな顔で泣いていたか、息子を失ったはるがどれほどの悲しみに晒されたか、私たちは物語を通して知ることができる。それがどれほど恵まれた環境か、今一度見つめ直したい。

人命を奪い、尊厳を奪い、生きる糧や大切な人を奪う。それが戦争だ。今年もまた、8月を迎えた。暑い夏がくるたび、多くの人たちが祖先の魂を弔う。私が空に願うことは、ひとつだ。

もう誰も、殺されませんように。

戦争も差別も、容易に人を殺す。もう、そんな悲しみをこれ以上降り積もらせるのは嫌だ。

「おかしいと声を上げた人の声は、決して消えない。その声が、いつか誰かの力になる日がきっとくる」

寅子のこの言葉を、強く胸にかき抱いた。声を上げるのが怖くなる時もある。疲れた、と思うこともある。それでも、一度上げた声は消えないから、どこかにはきっと届くから、寅子のように「はて?」と思うことに黙らず、不条理に声を上げ、誰も虐げられない世界を諦めない大人でいたい。それこそが、私が思う“まっとうな”大人の姿である。

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■虎に翼
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉
制作統括:尾崎裕和
作:吉田恵里香
美術統括:日髙一平
美術:川名隆、小泉章一、平岡未帆、荻野紗
法律考証:村上一博
裁判所考証:荒井史男
風俗考証:天野隆子
旧字考証:三浦直人
医事考証:冨田泰彦
制服考証:刑部芳則
朝鮮学生考証:崔誠姫
ジェンダー・セクシュアリティ考証:前川直哉
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
語り:尾野真千子
出演:伊藤沙莉、岡田将生、竹澤咲子、石田ゆり子、岡部たかし、森田望智、三山凌輝、土居志央梨、戸塚純貴、岩田剛典、名村辰、松川尚瑠輝、平岩紙、桜井ユキ、ハ・ヨンス、平埜生成、田中真弓、遠山俊也、望月歩、片岡凜、田口浩正、高橋克実ほか
放送:NHK
公式サイト:https://www.nhk.jp/p/toranitsubasa/ts/LG372WKPVV/

<参考>
朝ドラ「虎に翼」が光を当てた戦災孤児…75年前の新聞はどう伝えたか、当時の記事から振り返る(南日本新聞)
【虎に翼】相関図[裁判官編 第14週~]【NHK朝ドラ公式】

(イラスト:水彩作家yukko

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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729