【虎に翼】私が思う“まっとうな”大人とは

osanai 虎に翼(裁判官編)

日本初の女性弁護士で、後に裁判官となる猪爪寅子。一時は法曹界を離れる決意をするが、戦後に家族の生計のために再び働き始める。
主人公の寅子を演じるのは伊藤沙莉。映画、テレビドラマ、アニメ作品などを手掛ける吉田恵里香が脚本を担当。また本作は、日本初の女性弁護士の三淵嘉子(故人)がモデルになっている。
(※本テキストは「虎に翼」の第10~19週の内容がもとになっています)

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「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」(憲法第14条より抜粋)

連続テレビ小説「虎に翼」は、総じてこの憲法第14条を想起させる。戦後の憲法改正から、今年(2024年)で78年が過ぎようとしている。“差別を許さない。”──こんな当たり前のことが、およそ80年の時を経ても「きれいごと」と揶揄される現代において、毎朝放映される15分のドラマが、多くの人の心に灯をともしている。

日本初の女性弁護士として、親族法、相続法、家事審判所の問題に携わり、新潟家庭裁判所所長を務めた人物、三淵嘉子。実在する人物をモデルとした、伊藤沙莉演じる主人公・猪爪寅子は、明朗活発で物怖じしない性格だ。納得いかないことには「はて?」と小首を傾げ、「それは違う」と臆さず声を上げる。そんな寅子の姿に共感する人が多いのは、日頃さまざまな「はて?」を飲み込んでいる人の多さの表れともいえるだろう。

第9週までは、寅子が日本初の女性弁護士になるまでの軌跡、その後の挫折、戦争により翻弄される苦悩が、家族の絆と共に描かれていた。第10週からは新たな転換期を迎え、寅子が「家庭裁判所の母」と呼ばれるまでの奮闘が物語の柱となる。

戦後、親や身寄りを失った孤児たちが路上にあふれ、窃盗や暴行事件などの少年犯罪が多発した。言わずもがな、彼らが起こした事件の大半は「生きるため」の行動であった。彼らを「罰する」のではなく、「保護する」ために設立が決まった家庭裁判所。戦争により兄と夫を亡くした寅子は、家族を養うため、一度は離れた法曹の世界に舞い戻り、家庭裁判所の設立準備に邁進する。

家庭裁判所の設立準備室局長を務めるのは、多岐川幸四郎。相当な変わり者だが、家裁設立にかける情熱は誰にも負けず、時に周囲を呆れさせながらも目的達成に向かって駆け抜ける。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。