【チャレンジャーズ】今、一番なりたい女性はタシ・ダンカンだ

私は若かりし頃、仲間達と一年ほどの準備期間の後に起業したけれど、色々あって泥沼化し最終的に全てを失うという挫折を経験したことがある。悔しくて悲しく自己嫌悪で生きた心地がしなかった日々がしばらくは続いていた。

ある時から私はずっと、「なにかに秀でて活躍し、自立して社会の中での強者であらなければならない」と強迫観念のように思って生きてきた。いつかは「成功」を実感できる何かをずっと手に入れたかったのだ。

周囲と同じように、より良い生活や社会的地位や名声というものを自分も手に入れたい。そうでなければと焦りさえ感じていた。そのための努力は惜しまずにしてきたつもりだった。だが、それはあっさりと崩れ落ちてしまったのだ。

この映画のパワフルで魅力的な女性タシ・ダンカンはそういった人生の挫折、あるいは結婚や出産といった自身の役割の変化があろうともその強さと確固たる決意が消えることはないどころかさらにパワーアップする。清々しいほどのしたたかさとまっすぐな眼差しには、不思議と笑いが込み上げてくる。

私たちに必要なのは、社会からの強迫観念や他の誰かに決められた幸福や正義ではなく、自分の欲望や野心に従い人生をユーモアを持って楽しむことだ。この世界の中心は自分だと言わんばかりに。それを全身で体現しているこのタシ・ダンカンという人間に私は、どうしようもなく惹かれてしまう。

いいや、私はタシ・ダンカンになりたいのだ。

映画館からの帰り道、彼女とお揃いのジュエリーを身につけたい衝動に駆られて買いに走ってしまった。きっと自分だけではないだろう。

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■チャレンジャーズ(原題:Challengers)
監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:ジャスティン・クリツケス
撮影:サヨムプー・ムックディプローム
美術:メリッサ・ロンバルド
ヘアメイク:フェルナンダ・L・ペレス
テニスコンサルタント:ブラッド・ギルバート
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
出演:ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー、マイク・フェイストほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/challengers/

(イラスト:水彩作家yukko

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映画やドラマについてPodcastでおしゃべりをしたりテキストを書いたりしています。現在育休中の会社員。