【チャレンジャーズ】今、一番なりたい女性はタシ・ダンカンだ

パワフルで魅力的な女性を描いた作品はこれまでも数多くあるが、この映画におけるタシ・ダンカンという人物は、全く新しい女性像といっても過言ではない。

それは彼女が若い頃から人生を主体的に選択をしているからではないだろうか。彼女の行動原理は外的な影響で突き動かされるものではなく、まるで内側から湧き出ているかのようである。

男性2人を彼女が翻弄しているというよりも、むしろ彼女自身が彼らの(恋とテニスの)対戦をただ楽しんでいるように見える。人生の大きな挫折さえも別の成功に変換する通過点にすぎない。誰もが一瞬で彼女に魅了されてしまうのは「ただそうしたいから」というシンプルな欲求が彼女のエネルギーの源だからだと思える。

それは性的欲求であり出世欲だ。どういう行動や態度が他人から見て正しいかということよりも、自分の中から湧き出てくる欲望や野心や美学の方を選択する。

だからこそ喪失や挫折は大袈裟に描かれない。

彼女が怪我から本当に立ち直ったかどうかさえよくわからないのだ。なぜなら彼女にその物語は必要ないからだ。その代わりに、この映画は人生におけるユーモアとどうしようもないセックスを描いていく。
我々観客もパトリックとアート同様に、いたずらな彼女にもて遊ばれることを自ら望んで楽しんでしまうのだ。そのセンシュアルで明るく軽やかなムードは作品全体に漂っている。

一方で、アートとパトリックは共に裕福な家庭出身であり、タシはそういうわけではないことを仄めかすセリフもさりげなく散見されていたように感じた。アートとパトリックはたとえテニスがなくともスタンフォードに入学できただろうが、彼女は違った。テニスという武器があったからこそスタンフォードへの切符を手にできたし、だからこそたとえ選手を引退してもテニス界にしがみついていられるだけの底力と揺るがない決意を持てたのかもしれない。

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S H A R E
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映画やドラマについてPodcastでおしゃべりをしたりテキストを書いたりしています。現在育休中の会社員。