【異人たち】『異人たち』が見せてくれた死の残酷さと希望

綺麗事ではない死

人は皆、死にむかって生きている。それと同時に、そこにどうやって向かうのか、どう生きるのかということこそが、生きることの意味なのかもしれない。

本作の最大の魅力は、その意味をアダムが自問自答しながら、追求するところだ。

アダムがかつて家族で行ったダイナーで、最後の家族団らんを過ごす場面では、かなり明確に「死」が描き出されている。両親は、単に姿を消すのではなく、表情がなくなっていき、瞳孔が開き、明らかに目の前で死んでしまう。

ここまで生々しく両親の死を目の前で見せたのは、アダムが求めていたのが最後の別れを果たすことだったからだ。つまり死を受け止めるために両親に再会したかったのだ。

作中でもっともエモーショナルな場面で、美しさよりリアリティを見せたからこそ、死という変えられない現実の重みが伝わり、それを受け止め、乗り越えるアダムの姿が胸を打った。

本作の原作は、1987年に出版された山田太一による小説「異人たちとの夏」だ。そして、翌年に大林宜彦監督によって映画化された。その頃の日本はバブル景気の最中で、1986年には戦後最多の自殺者数を記録したという。

約35年前に書かれた原作小説に漂うのは、孤独が人を蝕むもの悲しさであり、現代にも十分に当てはめることができる。

コロナ禍を経験した私たちは、孤独がいかに人を苦しめるか身をもって知っている。それでも孤独の先に死があるのではなく、愛をもって生きた先に死があるのだと、この映画は希望を見せてくれた。

──

■異人たち(原題:All of Us Strangers)
監督:アンドリュー・ヘイ
原作:山田太一『異人たちとの夏』
脚本:アンドリュー・ヘイ
音楽:エミリー・ルヴィエネーズ=ファルーシュ
撮影:ジェイミー・D・ラムジー
ヘア&メイクアップ:ゾーイ・クレア・ブラウン
編集:ジョナサン・アルバーツ
出演:アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイほか
配給:ディズニー
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/allofusstrangers

(イラスト:水彩作家yukko

1 2
S H A R E
  • URLをコピーしました!

text by

1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。