自分の人生を大事にすること
──改めて、AARだからこそできる支援について教えていただけますか?
政府や国際機関だからこそできる「大きな支援」も大切です。予算をかけて、大きな規模に対して速やかに支援することで、救われる命もありますから。
一方で、彼らではできない支援の形も存在します。一人ひとりに向けた細やかな支援です。人によって必要な支援は異なります。飲料水や食料、日用品などのベーシックニーズの場合もあれば、医療が求められている場合もある。中には、戦争によってメンタルが傷つき、カウンセリングが必要な方もいるでしょう。
──東日本大震災では、支援が行き届かない方へのアプローチが課題になっていました。
モルドバでは、コミュニティセンターをつくって、来てくださった方に情報提供をお願いしています。これはAARのトルコ事務所で働き、シリア難民支援を行なっていたスタッフのアイデアです。コミュニティの中で「つながる」こと、そこから情報共有がなされるといったアウトリーチの方法を、外部団体とも連携しながら実施しています。
日本でも、AARは東日本大震災以降、東北での支援をしてきました。ここでも地域住民が、支援が行き届かない人へのアクセスに一役買ってくれました。配食や炊き出し、交流会などを経由して、たくさんの情報提供がありました。
──まだ支援が続いている中ですが、今回のウクライナ事業を通して、藤原さんが学んだこと、感じたことを教えてください。
自分の人生を大事にすること。それが何よりも大切だと感じました。
ロシアのウクライナ軍事侵攻によって、ウクライナの方々の日常は壊されてしまいました。それは私たちにとっても例外でなく、為政者の意思決定によって、同じように日常が奪われてしまう可能性があります。
ウクライナの方々がなぜ今も希望を持っていられるかというと、これまで大事にしてきた日々があるからだと思います。大変だけど、ウクライナに戻ることを諦めない。日常が戻ってくると信じて頑張る、頑張れる。そういったことを、彼らと話をして感じました。
──報道に際し、無力さを感じた方も多かったように思います。
自分のできることをやってもらいたいですね。
例えば仕事をされている方であれば、自分の持ち場で、一生懸命業務に取り組んでもらうこと。そうして経済を回してもらえれば、きっと誰かの役に立ちますよね。好きなもの、推している何かにお金を使っていただくのも、社会貢献だと思います。
もし余裕があって、ウクライナ支援に寄付されたいという方がいれば、私たちはその思いを受け取り、しっかりと形にしていきます。私たちの支援を通じて、困っている方々に少しでもポジティブなインパクトを与えられるよう、引き続き力を尽くしていきます。
(Photo by 結城 拓人)
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■世界が引き裂かれる時(原題:KLONDIKE)
監督:マリナ・エル・ゴルバチ
脚本:マリナ・エル・ゴルバチ
撮影:スヴャトスラフ・ブラコフスキー
音楽:ズヴィアド・ムゲブリー
出演:オクサナ・チャルカシナ、セルゲイ・シャドリン、オレグ・シチェルビナほか
配給:アンプラグド