【世界が引き裂かれる時】戦争が壊した日常、それでも希望を諦めない(AAR Japan[難民を助ける会]・藤原早織)

変わっていく日常を受け入れたくない

(写真:小峯弘四郎氏/AAR Japan)

──映画「世界が引き裂かれる時」を鑑賞した際の感想を教えてください。

ウクライナの事業に携わっているので、他の方々の感想とは異なるかもしれませんが……。何というか、自分の中で色々なことが整理できたような感覚がありました。

──具体的には、どんなことが整理できたのでしょうか?

映画の舞台になっているのは、ウクライナ東部のドネツク州グラボべ村ですよね。これまでも報道や関連書籍、地政学の解説書など、様々なソースで親ロシア派と反ロシア派の対立についてキャッチアップしてきました。ぼんやりと分かっていたこと、想像していたことが映像によって具現化されたように感じたんです。

例えば、ドネツク州の住民のほとんどはロシア語を話せて、親ロシア派の政治家にとっては強固な地盤であることは分かっていました。でも、当然反ロシア派の住民も混ざっていて。両者はある程度友好的な間柄だったのか、激しく対立していたのか、はたまたグラデーションがあったのか。そういったことがリアルに描かれていたように感じます。

──緊張関係が伺えつつも、折り合いをつけていた場面もありましたよね。

主人公の夫であるトリクはどっちつかずの立場を保っていました。彼のように、市井の人たちはそれほど政治的な意図を明確に持っていたわけではないんですよね。

親ロシア派と反ロシア派、主義主張が異なるからといって殺し合うわけではない。そのときの流れで、「どっちについた方が得か」というのを考えていたんだと思います。

──主人公のイルカは妊娠していました。明らかに出産する環境としては危険でしたが、なぜ「逃げない」という選択をしたのだと思いますか?

「逃げない」という選択をしたわけではないと思います。ただ、変わっていく日常を受け入れることができなかったのではないでしょうか。

実は、モルドバに避難したウクライナ人に話を聞くと、ほとんどが「最初は逃げるつもりはなかった」と言うんですよ。爆撃があって、子どもが怖がったから仕方なく逃げてきただけ。もし子どもがいなかったら、おそらくウクライナに留まっていただろうと。

──戦時下のウクライナでは、18~60歳の男性は国外出国が禁止されています。親やパートナーと離れたくないという思いもありそうです。

本当に引き裂かれる思いです。今でも、モルドバに滞在しているウクライナ人の多くが、「一刻も早く帰りたい」と考えています。

私たちは難民支援の一貫で、モルドバ語の語学支援を企画したことがありました。でも「モルドバ語の勉強をしたい」という方はほとんどいなかったんです。モルドバ人は優しくしてくれるけれど、モルドバ語を学んだらここでずっと暮らすことになってしまう。そういった複雑な心境を、現地では何度も目の当たりにしました。

(写真:小峯弘四郎氏/AAR Japan)
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株式会社TOITOITOの代表です。編集&執筆が仕事。Webサイト「ふつうごと」も運営しています。