2022年2月24日、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した。国際秩序の根幹を揺るがす深刻な事態に、世界は急ぎ対応を迫られている。
映画「世界が引き裂かれる時」は、2014年に実際に起こったマレーシア航空17便撃墜事件をもとに描かれたフィクションだ。監督を務めたマリナ・エル・ゴルバチは、ドンバス戦争の2年後、2016年から本作の脚本を書き始めたという。
今回話を聞いたのは、AAR Japan[難民を助ける会]の藤原早織さん。同会でのウクライナ支援プロジェクト立ち上げ時から、携わってきた。隣国モルドバにて、難民支援のコーディネートを行なうため*、実際に現地にも赴いた。難民支援の詳細や、映画「世界が引き裂かれる時」の感想などについて話を伺った。
*人口264万人のモルドバに、ウクライナから89万人が避難した。その多くは他国へ移っているものの、現在も経済的な理由などで、約11万人のウクライナ人が留まっている
藤原 早織(ふじわら さおり)
大学生のときに国際ボランティアなどに関わる。ITベンチャー企業での勤務を経て、2020年にAARに入職。ラオス事務所駐在後、国内災害事業やウクライナ事業を担当している。
世界が引き裂かれる時
ウクライナ東部のドネツク州グラボべ村では、親ロシア派と反ロシア派が対立し、緊迫した状況が続いていた。村に住んでいる妊娠中のイルカと夫のトリクは、マレーシア航空17便撃墜事件をきっかけに、両派の争いへと巻き込まれていく。
監督は長編3作目となるマリナ・エル・ゴルバチ。撮影は2020年、ウクライナ南部オデッサ地方で行なわれた。主人公の弟ヤリクを演じたオレグ・シェチェルビナなど一部の出演者と撮影クルーは、本作製作後、ウクライナ防衛のため軍の任務に就き戦っている。
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現地の「声」を大事にする
──藤原さんは、ITベンチャー企業で働いた後、2020年にAARに入職されたんですよね。
幼少期から英語や海外に興味がありました。大学では、国際ボランティアやワークキャンプに参加したり、一年休学してイギリスで若者のホームレス自立支援に携わったりと、ヨーロッパのチャリティやボランティアの世界を広く見ていました。
卒業後もソーシャルセクターの事業に関わりたいと考えていましたが、世界や経済の仕組みを知るために、ITベンチャー企業に就職しました。関係者といかに信頼関係を築いていくか、プロジェクトをどのように進めたら良いかなど、現在の仕事の基礎となる部分を経験できましたね。
──AARでは、入職後にラオス駐在となり、現在はウクライナ事業を担当されています。ウクライナへの支援は、いつ頃からスタートしたのでしょうか?
ロシアがウクライナに軍事侵攻し、早い段階で両者の争いは長期化すると分かりました。だから真っ先に考えたのは、長期化を前提とした継続的な支援の仕組みです。
ありがたいことに、当時は本当にたくさんの寄付をいただくことができました。ウクライナだけで6つのプロジェクトが生まれ、適切な支援を必要な方々に届けるということに注力しました。私は東京で調整役を担うことが多かったですが、ウクライナ難民が逃れた隣国のモルドバで、事務所を構えるなど長期的な支援の体制づくりを担いました。
──支援を行なうにあたって、気をつけていることは何ですか?
現地の方々の声を聞くことです。「こんな風に良くしていきたい」といった思いを汲み取り、実現に向けて取り組むようにしています。
私たちはあくまで「外の人」です。外の人が入って、外の人の価値観を押しつけてはいけません。お金を集めたり、物資や食料を調達するなど、あくまで私たちの役割はバックアップなんです。
もちろん私たちはノウハウを持っており、それらを活かす努力はします。「他の国ではこんなことをしていますよ」と紹介するなどして、現地のアイデアと融合させていくような形でコミュニケーションをとっています。