決まってラストのシーンは、主人公達がこの先どうなるのかを結論付けない終わり方なのである。
「それでも彼らは生きていかなければならない
「我々はただ見守ることしかできない」
そんな意味が込められているようにも感じる。
この観客の胸を締め付けるような、様々な想像を膨らませてしまうラストに、我々は深く考えさせられるのだ。
本作「トリとロキタ」のラストは、トリのこんなセリフで終わる。
「ビザが貰えていたら、一緒にベルギーで暮らせたのに」
ビザが貰えたら、二人は本当に幸せに暮らせていたのだろうか。
私はそう思った。一度踏み入れたら戻れない闇の世界。
現に、様々な理由から闇の世界に飛び込み、抜け出せなくなってしまう若者たちが、世界中に蔓延っている。
本当の意味でこの問題を解決するには一体どうしたらいいのだろうか。そんなことを考えても、答えが出せるわけがない。
国という概念を無くせばいいのか。そんなことしたらただでさえ不安定な世界の均衡は破綻する。
移民や身寄りのない子供達に多くの手当を与えれば解決なのか。
実際そんなことができる余裕のある国なんてどこにもない。
こうして困っている人が一体何人いるのだろう。考えただけでものすごく胸が締め付けられる。
「今すぐロキタを守ってあげたい」なんて思ってしまった自分が馬鹿馬鹿しく思えてきたりもした。
ただ、これは極端な貧困層や移民だけに起きている問題ではないとも思っている。
大なり小なり、現代に生きることに対する悩みや不満は皆が持っているであろう。
日本だけで言えば、子育ての手当金が少なく子を持たない者が増加。少子高齢化が進み続けているが、高齢者の年金だって充分ではない。子供を産んで働こうものなら保育園に入れなかったり、職場へ女性が復帰しづらかったり。
働けば働くだけ税金として国に搾取されてしまったり。
人々が全てのことに対して自由に選択をして生きていける世の中なんて実現するはずもないのかもしれないけれど、世界中でこんなに苦労して辛い思いをしても、報われない人々がいるということを、ただ見ていることしかできないこの現実を、本作品を通して一人でも多くの人に知ってもらいたい。
エンディングで流れる、トリとロキタの絆を表す「歌」は、切なくも愛おしく、心がギュッと締め付けられた。
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■トリとロキタ(原題:Tori et Lokita、英題:Tori and Lokita)
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
製作:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ、デルフィーヌ・トムソン、ドニ・フロイド
脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
撮影:ブノワ・デルヴォー
編集:マリー=エレーヌ・ドゾ
ミキシング:トマ・ゴデ
音響:ジャン=ピエール・デュレ
サウンド・エディター:ヴァレーヌ・ルノワ
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:ドロテ・ギロー
出演:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アウバン・ウカイ、ティヒメン・フーファールツ、シャルロット・デ・ブライネ、ナデージュ・エドラオゴ、マルク・シンガほか
配給:ビターズ・エンド
(イラスト:Yuri Sung Illustration)