全ては家族のため、トリのために。
二人は同じ施設に寝泊まりしており、トリの学校が終わる頃に、レストランへ行き、歌を歌い、チップをもらう。
その後、レストランのシェフ、ベティムという男の指示の元、ドラッグの売人として夜の街に繰り出していく。奴隷のように扱われ、時には女の子のロキタだけべティムに残され、性行為までも強要されてしまう。
ロキタは家族想いだ。故郷の家族やトリのためを思えば、苦しくも強要されたことを受け入れてしまう。
昼になれば、密航を手伝った斡旋業者に待ち伏せされ、無理やりみかじめ料を巻き上げられる。実の母親からは、「無駄遣いしているのではないか、早く送金してくれ」と送金を急かされる。トリを学校に行かせてあげたいロキタは、常にお金のことで頭がいっぱい。ビザ取得も上手くいかないロキタは、まさに八方塞がりの状態なのだ。
「ビザさえあれば、いい仕事に就けて全てが解決する」
そう信じてやまないロキタは、偽造ビザ発行を条件に、べティムから更に危険を伴う違法行為を強要されてしまう。
こんなにも辛くて苦しい試練を与えているにも関わらず、それでもこの世界は二人を受け入れようとしなかった。
贅沢が欲しいわけじゃない。ただ二人でいたいだけ。
純粋な絆で結ばれた二人の姉弟が、たった1つ望んだことすらも叶わなかったのだから。
ダルデンヌ兄弟が映画を通し伝えようとする「社会的弱者」のリアル
ダルデンヌ兄弟の作品は一貫して、人々が幸せに暮らす陰で、様々な「社会的弱者」と呼ばれる人たちの姿を映し出す。彼らはみな、もがき苦しみながら必死で生きていた。
1999年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した、ダルデンヌ兄弟の代表作「ロゼッタ」。アルコール依存症のシングルマザーとトレーラーハウスで貧困生活を送る主人公、ロゼッタが仕事に就けずもがき苦しむ姿を描く。
2014年に製作され、主演のマリオン・コティヤールがアカデミー主演女優賞にノミネートされた「サンドラの週末」。鬱病で休職していたサンドラが復職するも、経営状況が芳しくないことから、サンドラを解雇しようとする。週末、サンドラは従業員一人ひとりの家を訪ね、解雇の反対を懇願する姿をひたすらに描く作品だ。
一貫して、伝えたいことをシンプルに、多くを語らず表現し、手持ちカメラ撮影で演者を背後から撮ることで、彼らの目線であったり、生きている世界の緊迫感を表現しているかのよう。
車道を挟んだ反対側の道路へ走って渡るシーンや、自転車、バイク、車などを運転するシーンが多々あるのも、この緊張感をもたらす演出の1つ。