【ブラッシュアップライフ】ありえなさとリアルさの狭間で

「違う時代や国に生まれていたら」

そう思うことだって、確かにある。でも現実の私たちは、今の自分の人生を生きていくしかない。

麻美は死ぬたびに、バカリズムさん演じる死後案内所の受付係に労われる。優しい言葉をかけられるも、オオアリクイとかウニとか、人間以外の来世を通告されてしまうのだ。それでも麻美にはチャンスが与えられる。今世をやり直し、相応の徳を積めば、来世も人間に生まれ変われるというのだ。

何度も提示される二者択一を前に、麻美は繰り返し今世をやり直す。劇的に、たとえば、超有名人になるとか、大勢の命を救うとか、そんなご大層なレベルではないけれど、それでも確実に得を積むような人生。だが、人生をやり直す理由、そしてやり直した上での人生の選択は、何周も人生を重ねるうちに少しずつ、しかし大きく変わっていく。

「やり直せない人生だけど、それでも、もし、もし何かをやり直せるとしたら?」

「やり直すなら、何のために?誰のために?」

1話から最終話にいたるまでに張りめぐらされる、ユニークな演出や無数の伏線の影で、このドラマはそんな問いかけをしている。

その問いかけによって浮き彫りになるのは、私たちが日常でひた隠しにしている、いくつもの願望や後悔、いわば本心だ。こうありたかった自分。望んでいた人間関係のカタチ。

麻美のように人生をやり直す機会のない私たち。ブラッシュアップできるのは、目の前にある「今」と「未来」だけ。「来世はウニです」。死後案内所でそう言われたとしても、後悔のない人生を私たちは送っているだろうか。

「後悔はない」。そう思えるとしたら、すばらしい。その理由はなんだろうか。自分や周りに言い訳をせずに生きてきたからかもしれないし、ダメな自分や失敗も含めた過去、それらすべて受け入れることができているからかもしれない。「いや、絶対後悔する」。もしそう思うのであれば、その後悔の原因は何なのか。それは、今日からどうにか「やり直せる」ものだろうか。

たまには立ち止まり、そんなことを考えてみるのもきっと悪くない。願わくば手遅れにならないうちに、「今日死んでも後悔はない」と言える日が私たちに訪れますように。

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■ブラッシュアップライフ
脚本:バカリズム
演出:水野格、狩山俊輔
プロデューサー:小田玲奈、榊原真由子、柴田裕基、鈴木香織
チーフプロデューサー:三上絵里子
音楽:fox capture plan
出演:安藤サクラ、夏帆、木南晴夏、染谷将太、江口のりこ、黒木華、前野朋哉、市川由衣、野呂佳代、志田未来、田中直樹、水川あさみ、三浦透子、松坂桃李、浅野忠信、バカリズムほか
製作著作:日本テレビ

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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随筆家。徒然なるままに徒然なることを。本・旅・猫・日本酒・文化人類学(観光/災害/ダークツーリズム)などなど。